2015年01月12日

なぜ「21世紀の資本(邦訳:みすず書房刊)」は世界的ベストセラーになったのか?〜翻訳者・山形浩生さんが語る「挫折しないための読み方」は、第1部・第4部を読み飛ばすこと

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2014年、世界で最も話題になった書籍は、「21世紀の資本(邦訳:みすず書房刊)」です。


分厚い経済書の英語版は、発行部数50万部を突破。
32カ国語に翻訳された累計発行部数は、100万部を超えています。


●Amazon.co.jp: 21世紀の資本: トマ・ピケティ, 山形浩生, 守岡桜, 森本正史: 本
http://www.amazon.co.jp/dp/4622078767/
(現在、amazonにて、全ジャンルの中で販売1位です。5940円、728ページ)


能力があっても、努力しても、遺産を相続して運用している者には勝てない。
ならば、「平等」をいかにして実現するか、ピケティは「教師」として世界に問いかけています。

(雑誌クーリエ・ジャポンより)



(トマ・ピケティ: 21世紀の資本論についての新たな考察:by TED)



【本の概要】


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・著者 トマ・ピケティは、先進国20カ国の税務統計を18世紀から現代まで収集・編集し、それを「富の配分」という観点から分析しました。


・数百万点におよぶデータの検証結果により、1980年代以降、飛躍的に格差が拡大したことを明らかにしました。


・1910年代の米国では、4%の最富裕層が総所得の35%を得ていました。
第二次世界大戦後、富は一時的に分配されましたが、21世紀に入り再び、100年前と同様になってしまいました。
この傾向は、欧州や日本も同様です。


・「勤勉と努力が報われる」という価値観は既に存在しません。
格差は19世紀に逆戻りしたのです。


・お金持ちになる最有力の方法は、遺産を相続し、運用することなのです。


・労働から得る収入が、資本から得る収益に勝ることはあり得ないことが分かってしまったのです。
努力は、相続に勝てないのです。


・その考察を式にしたのが「r>g」です。
資本の収益性(r)は、経済成長率(g)を上回っています。
これが格差を不可避的に拡大する、という意味です。


・この式は米国をはじめ、世界各地で大きな反響を呼びました。
ピケティの講演は、各国の国会レベルで大歓迎されました。


・2014年11月16日、ブリュッセルでの講演には、2800人の聴衆が詰めかけました。
若者が多いのが特徴。
ピケティの示す解決策を理解することで、行き詰まったこの世界から抜けだそうとしています。
ピケティの理論は、若者が抱える不安に呼応したので支持されました。



【解決策:資本家に課税せよ】


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・人々の社会的関係は、これからますます相続した財産の収益性(r)に左右されます。
この危険な傾向は、経済成長率(g)が低くなるほど強まります。


・ピケティの示す解決策は3点にまとめられます。


(1)
年間40万ユーロ(約5800万円)を超える所得に対して、かつての米国がそうであったように、80%程度の累進課税をかける。


(2)
資産についても、巨大なものには課税する。
できれば世界規模で行うべきだ。
税率は100万ユーロを超える資産には年率1%、500万ユーロを超える場合は5%程度。


(3)
欧州においては、現在の財政緊縮政策を中止し、高等教育により多く投資することで、経済成長を実現させる。


解決策は、世界規模で大金持ちから税金を取ることで、再分配を実現することなのです。
マルクスの「資本論」と方向性は同じです。



【反対意見もある】


・2014年5月、ロンドン金融界の顔「フィナンシャル・タイムズ」は、「不平等に関するピケティのデータは間違っている」と指摘しました。
→そのあと現実に、毎週のように公表される統計は、ピケティの検証が正しいことを裏付けました。
フィナンシャル・タイムズはこの書籍に、2014年の最優秀経済賞を与え、自らの非を認めました。


・フランスの評論家ニコラ・バヴレスは、「県庁レベルのマルクス主義」と攻撃。
この書籍が世界的に売れたことで、主題が世界レベルであることが実証されました。


・経済学者からの専門的な批判も出ています。
ピケティは対抗措置として、データを編集しなおして、世界中の専門誌や学術誌に論文を投稿しています。


・ピケティほどの規模で、定量的な形で分析した人はいません。
彼はデータベースをすべて公開して、他の経済学者も引用できるようにしています。
ピケティは「格差」について後世に残る学問分野を作ったといえます。


・世界的な規模の反響にピケティ自身は、「とにかく膨大な作業だったのだから」自らの著書には、それだけの価値があると考えています。


・同僚たちと何年もかかってデータを蓄積してきました。
データが不足する時代は、文学作品まで読み込んで、手がかりを探しました。
その上で、著書を読みやすくするように工夫しました。



【教育者として格差に立ち向かう】


・ピケティは、講演先の事情に合わせて、話すテーマを政治的に選び、支持者を増やしています。


・米国では、格差の問題に焦点を絞って話しました。


・欧州では、資本に関する研究成果を駆使して、財政緊縮政策を批判しました。


・欧州が真に統合され、一律に課税する欧州政府が機能していたら、債務危機問題はさほど重大にならなかったと主張します。


・現状、ユーロ圏という怪物を構成するのは、18ある加盟国ごとに異なる債務、異なる金利、異なる税制だ。
これでうまく機能するはずがない、と批判。


・多くの人が、世界規模の課税はユートピア的だと考えます。
実際、フランスにて、高所得者層に75%の課税を強いる現政権のアイデアは失敗しました。


・しかし、ピケティは考えを曲げません。
市場の力学だけで格差の解消は困難であり、とりわけ経済成長が低いときは不可能だという確信があります。
自分が立証した「r>g」の式です。


・経済を活発にするためには、大学に投資すべきという考えを繰り返し話します。


・ピケティは毎週火曜に帰国します。
自分が創設したパリ経済学校の修士課程の授業のためです。


・同校に資金を集め、より充実した新校舎へ移すべく奔走しています。
若い才能を国内に留めるべく働くことで、世界を平等に近づける役割を担おうとしています。
これは、彼自身の主張と矛盾しない行動です。


※※※


【挫折しないための読み方】


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これだけ多くの人達が買っているにも関わらず、難解で膨大なページ量に、挫折してしまう人も多いです。


翻訳者・山形浩生さんは、この分厚い本を買った人へ「挫折しないための読み方」を語っています。


・第1部は、読み飛ばしましょう。


・キンドル(アマゾンの電子書籍サービス)のアンダーライン共有機能を使って、米国人読者がどの章に多くアンダーラインを引いたか調べた人がいます。
その結果、みんな「はじめに」では引きまくりです。
ところが、第1章から激減し、第1部を突破できた人は殆んどいません。
細かいGDPの計算などが書いてあって挫折するのです。


・第4部は欧州の話しで、日本の関心から離れるので、そこも読み飛ばします。


・第2、3部を拾い読みしましょう。
(しかし読みこめば、コネタ満載です。米国の経済学者はお金持ちが多いから、再配分を否定したがるという嫌味や、独身税は少子化対策に役立たなかった等)


・「成長か格差か」という二者択一という考えに陥らないこと。
日本のアベノミクスを「成長より格差是正だ!」と、ピケティの議論で批判するのは無理があります。


・この本の重要な押さえどころは、「r>gにおいて、gつまり経済成長率が小さくなればなるほど、格差は開く」ということ。
だから、成長と格差対策は両立させるべきなのです。


・日本の格差は欧米と異なり、大企業に勤務する人とそうでない人、先行世代と若者との間での問題です。
日本においては、若者に向けた手当によって格差を縮小すべきなのです。



【NHK パリ白熱教室の視聴をオススメします】


現在、NHKにて著者・ピケティによる講義が放送されています。
全6回で、次回はその2回目です。
読破は大変なので、こちらを観るのも良いでしょう。
(とても優しく講義しているので、むしろ書籍より、この番組を勧めます)。


第1回は既に放送済みですが、Youtubeで検索してみてください。
ここまで読んだ皆さんなら、観てもすんなり理解できると思います。


パリ白熱教室
第2回「所得不平等の構図」〜なぜ格差は拡大するのか〜

2015年1月16日(金)Eテレ
午後11時〜午後11時54分

●NHK 白熱教室
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/

Posted by kanzaki at 2015年01月12日 08:50