2015年02月17日

フィンランド制作の映画『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』の感想〜絵がとても素晴らしい。昔の日本版アニメと違い「サザエさんの家族旅行」的な内容

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2月13日、本国フィンランド制作の映画『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』が、日本で公開されました。
公開翌日に鑑賞してきましたので、その感想を書きたいと思います。


(映画『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』60秒予告)


【感想】

・作画に癖もなく、とても綺麗で安定しています。
どのシーンを切り取っても、コップやクリアファイル等の関連グッズに印刷すれば、そのまま売れてしまう程の美しさです。
絵柄は、昔、日本で制作したものではなく、キャラクターグッズでよく見る絵柄です。
あれが、そのまんま動いていると思ってください。
日本人が制作したと言っても納得してしまいます。
3DCGアニメならばともかく、2Dの平面イラストでここまで綺麗だと、日本もうかうかしていられません。

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・キャラクターは、みんなが思っている性格そのまんまでブレていません。
(ただし、フローレンは、あんな都会に憧れるヤンキー田舎娘だっけ?)
どこへ行っても、みんな性格が変わらず、自分の思ったとおりに行動しています。
ムーミン谷は、そういった多様性を受け入れるおおらかさがありますが、今回、ムーミン家族が出かけた場所では、そうもいきません。
それ故、様々なハプニングが巻き起こります。
超ニュートラルなキャラである主人公・ムーミンは、みんなのフリーダム過ぎるキャラの中にあって、よく精神崩壊しないなあと感心します。
(さすがに、リビエラの高級リゾートビーチだけは性格合わず、少々うつ気味でしたが)


・ヒロインであるはずのフローレンが、ヤンキー田舎娘です。
地元志向のマイルドヤンキーと違い、都会や芸能人に憧れる昔ながらのヤンキーです。
それ故、リビエラの高級リゾートビーチに着いて、物凄く順応します。
金持ちのプレイボーイにナンパされて大喜び。
ビーチやプールでセレブのように振る舞う姿も様になっています。
1枚のコインを元手にカジノで大金を稼ぎ、口紅にビキニ姿、ジェットスキー、カクテルパーティー、香水、ダンス、他のセレブ顔負けの行動です。
あれっ? こんなキャラだっけ?
今どきな感じで、これはこれでありかも。
ある意味、今回のストーリーを引っ張るキーになるキャラでした。
海外制作なのに、日本のヤンキー田舎娘そのものなキャラ。
こういう女の子は、世界各地にいるものなのかな?

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・ムーミンパパも、フローレン同様に、貴族的な生活を満喫しています。
対して、ムーミン、ムーミンママは、この生活が肌に合いません。
この対比が、はっきりしていて面白いです。


・ミムラ姉さんが美人で好きになりました。
しかも、ちょっと変わっていまして、海賊に囚われの身なのに、そのスリリングな体験を思う存分楽しんでします。
縛られた縄が解けそうになり、逃げ出そうと思えば逃げられるのに、海賊に声をかけてきつく縛り直してもらいます。
また、海賊とムーミン一家が一悶着あって、海賊が退散しようとした時、「人質を忘れているわよ」と言って、自分から海賊船へ乗り込みます。
女優のミムラさんが実写で演じても、全く違和感ないかも。

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・私の心の師匠スナフキンは、本編であまり出番がありません。
その代わり、オープニングの主要スタッフのテロップが表示されていくシーンは、スナフキンの独壇場です。
スナフキンが、ムーミン谷の様々な場所を移動していくシーンとなっています。
完全に主役。
ある意味、一番美味しいかもしれません。
映像も美しく、文字が表示されているせいもあり、まるで小説の挿絵を見ているような感覚でした。

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・わずか77分の短さですが、後半ちょっと眠くなりました。
多分、ムーミンやムーミンママ同様、セレブ達の金持ち道楽、パーティーなどの上っ面な社交世界に嫌気がさしたのかも。

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・ムーミンですから、日本映画でいうところの「かもめ食堂」みたいな雰囲気を期待しているかと思います。
フィンランドの良いイメージ・・・スローライフ、ロハスみたいな。
残念ながら、今回は、「サザエさんの家族旅行」的なイメージです。
ドタバタ珍道中。
舞台が、太陽の光がさんさんと降り注ぐ、リビエラの高級リゾートビーチですからね。



(かもめ食堂の予告:私が好きな映画でもあります。ブルーレイを何度も観ていますよ)


・あまり説教臭い事は語っていません。
反対に、哲学的な、あの独特な会話もありません。
昔のアニメのような印象で観にいくと、ギャップがあるかもしれません。
細かいエピソードの連続で成り立っています。
しかも、しっかりとしたオチ無しで続きます。
そういう意味でも、サザエさん的な感じです。


・新潟市の中心部では、イオン南新潟店の中のシアターしか上映されていません。
しかも、レイトショーはありません。
77分の短編に、1800円を出せる人は、なかなかいないと思います。
実際、お客はマバラでした。


・映像は素晴らしいので、ぜひ今度は、ムーミン谷のエピソードでやって欲しいです。
できれば、スナフキンが主人公のスピンオフ作品も希望したいです。


・日本人のムーミン感は、ちょっと暗くて哲学的な雰囲気じゃないかなあと思うのです。
人が持つ寂しさをリアルに描いたダークファンタジー。
そもそも、原作もそうですし。
決して、ドタバタコメディは期待していないと思います。
今回の作品は、トーベ・ヤンソンが1950年代に描いた原作があるのだから、これは正史なのではありますが、多分、日本人のムーミン感とは違うと思います。


(日本版のアニメは、今回の劇場版と全く違い、日本の文学小説風ですね)


※※※


【監督の考え】


昨年、ムーミンの作者トーベ・ヤンソン生誕100年でした。
2015年は、ムーミンの童話誕生から70年という記念イヤー。
そこに新作の映画ですから、観ないわけにはいきません。


監督は、ハンナ・へミラさん。
フィンランド生まれの女性です。
2004年、トーベ・ヤンソンのドキュメンタリー映画「トーベ・ヤンソンの世界旅行」と、「ハル、孤独の島」のプロデューサーを努めました。
2012年、「Paavo.A Life Five Courses」で監督デビューをしています。
彼女が、雑誌「pen」で、今回の作品を語っています。


ムーミンには、小説版、コミック版がありますが、監督ハンナ・へミラさんは、コミック版を原作に選びました。
コミック版は、キャラデザ、構図、場面展開など、原作者自身が既に作り上げているので、映画化には最適な題材と考えたからです。


作画は、中国のチームによって手描きで行われました。
出来上がった原画は、12万枚!
トーベ・ヤンソンは、ハンドドローイングの天才。
彼女のオマージュとして、手描きアニメにこだわりました。


コミック版に描かれていない「背景と色合いの創造」にもこだわりました。
トーベ・ヤンソンがペインティングで使うデリケートなテクスチャーのスタイルを引用しながら背景をつくりました。
トーベは太陽の描き方は、光の強さによって変えていたので、今回の劇場版も数種類の太陽を描き分けています。
ムーミン谷は、かげろうのような優しい光で太陽を演出。
旅行先のリビエラの太陽は、はっきりとした線で強い光を表現しています。
リビエラの色合いは、原作の1950年代の観光用ポスターなどからリサーチしました。

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背景と色付け作業は、フランスのチームが行っています。
アーティスティックなアニメーションに定評があります。


作画、背景、色付けと、全てにおいてトーベのスタイルが踏襲されており、過去で一番オリジナルに近い世界観です。
是非、堪能してもらいたいと思います。
(出来れば、ストーリーはいつもの暗い感じが良かったのですが・・・)

Posted by kanzaki at 2015年02月17日 22:15