2016年05月05日

「人間の歴史」を1行にまとめると「人は、生まれ、苦しみ、そして死ぬ」になる〜小説「人間の絆」(著:ウィリアム・サマセット・モーム)

【人生に意味なんてものはない】


小説「人間の絆」。
イギリスの作家 ウィリアム・サマセット・モームによって書かれた作品です。


ここに描かれているメッセージは、「生きるということは、世界に一枚しかないペルシャを織り上げていくこと」です。


人生に意味なんてものはない。
いわば人生とはペルシャ絨毯のようなものだ。
この絨毯の刺繍のように、おのがめいめい、それぞれに、自分の人生を紡いでいけばよいのだ。
それぞれの人生は、だから、紡ぎ上がった時点で、各人各様の様々な模様になる。
人生には使命や意味、そして意義はない。
それでいいのだ。


もし、10代でこの小説と出会っていれば、その後の人生に大きく影響を与えたのではないかと思います。
(それ相応の読解力も必要ですが・・・)



【人は、生まれ、苦しみ、そして死ぬ】


小説「人間の絆」の中で、とある逸話を紹介しています。


東方の国王が、「人間の歴史」を知りたいと思った。

国王は学者に命じ、人間の歴史を書いた500巻の書物を集めさせた。

政務に忙しい国王は、500巻の書物を読む暇がない。
国王は学者に命じ、それを要約するように命じた。

20年後、学者は50巻に要約した。
その頃の国王は、ある程度政務から離れていたので、読む時間はあったものの、今度は気力がない。
国王は学者に命じ、もっと短く要約するように命じた。

20年後、老いた学者は杖をつきながら、1冊の書物を携えて宮廷にやってきた。
国王は、臨終のベッドにいた。
1冊の書物すら読むことができない。

学者は国王へ、「人間の歴史」をわずか1行に要約して話して聞かせた。


「人は、生まれ、苦しみ、そして死ぬ」


人生の意味など、そんなものは、なにもない。
そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ。
彼が、生まれて来ようと、来なかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは、一切なんの影響もない。
生も無意味、死もまた無意味なのだ。


主人公のフィリップは、重荷を取り除かれたような気がして、完全な自由を感じました。
迫害されてばかりに思った運命と、対等な立場に立った気がしました。


※※※


『「狂い」のすすめ (著・ひろ さちや)』にて、上記の小説を紹介していました。
「人は、生まれ、苦しみ、そして死ぬ」・・・これ以外に、もうなにもないぐらいシンプルですね。


「機動戦士ガンダム」の冒頭のナレーションに、似たような部分があります。


人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。


「人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった」の部分が、いまだに何故か印象深く記憶に残っています。
人の一生をシンプルにひと言であらわしていたからでしょうかね。


政治家、文化人、歌手、その他の有名な人達が、人生の意味・目的をこじつけます。
こじつけるだけならまだしも、多くの人に訴えかけています。
それを自分の仕事(お金)に利用・誘導しています。


昔なら、その言葉の美しさに惹かれもしたのですが、頭のかたすみでは、「これって本当か?」とも疑問に感じていました。
なぜなら、人生の意味をあらわした美しい言葉が、どうやっても自分の生活に溶け込まないからです。
そして、淡々と日々は過ぎていくのです。


そういや小説「人間の絆」よりももっと昔、仏教で既に説かれていました。


仏教にて釈迦は
「過去を追うな。未来を願うな。過去は既に捨てられた。未来はまだやって来ない。ただ今日なすべきことを熱心になせ」
と言っています(正式な言葉は、もうちょっと長いです)。


どうやら、かっこ良く言えば「今を生きる」というのが、人生なのかもしれません。
これならだいぶ気軽になり、自分を精神的に追い詰めなくてもいいですね。

Posted by kanzaki at 2016年05月05日 14:46