2017年01月25日

映画「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の感想〜SFですが、宮本輝さんの小説「錦繍」のような感覚。命や運命のせいにして生きるのではなく、過去を受け入れ、自分を受け入れ、お互いがそれぞれの道を前向きに生きるようになるストーリー


「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」プロモ映像


bokuasu0101.JPG
(新潟市の万代シテイでは、こんなコラボを展開中。やっぱり、万代シテイといえばレインボータワーですよね。いつか営業再開して欲しいです)


●映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』オフィシャルサイト
http://www.bokuasu-movie.com/


この前、映画を観てきました。
公開前の宣伝では、洒落た場所を巡るデートムービーみたいな印象でした。
しかし口コミで、「若い子よりも、オッサンの方が共感できる良作」だと聞き、観に行きました。
実際に観て、それを理解できました。


最近は、「君の名は。」など時間(タイムリープ)を取り扱ったSFが多いですよね。
ちょっと、胸焼け状態です。
実はこの作品もその一つです。


普通、タイムリープものは、過去に戻って悲劇の結末をハッピーな結末に変えるのが醍醐味。
しかしこの作品のSF設定では、「絶対に過去を変えることはできない」のです。


この説明が劇中でされた時、
「あっ、これって二人は結ばれることのない、バッドエンドしかないじゃん。主題歌は、ハッピーエンドなのに・・・」
と、観ている私の方が絶望しました。
これ、どうやってハッピーエンドに修正していくのだろうと思いながら観ていました。


しかし、SFモノですが、奇跡は起きません。
現実と同じです。
しかし、この二人の主人公(役者:福士蒼汰さん・小松菜奈さん)は強かった。
その悲しい事実を認め、受け入れ、そして前へ進んでいくのでした。


実際に生きていると、
「もしあの時、○○という選択をしていたら、人生は変わっていただろう」
と思うことが良くあります。
しかし、時間は戻りません。
過去を修正することは出来ません。
できることは、それを受け入れ、前へ進むことです。


そういう、受け入れ、前へ進む迄の心情を「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」では、ちゃんと表現できていました。


この映画を観て、私は宮本輝さんの小説「錦繍」を思い浮かべました。
この映画に流れている空気は、SF映画・SFアニメではなく、文学作品の方に近いのです。
だから、年配の人が共感できるのではないでしょうか?


宮本輝さんの小説「錦繍」は、主人公が10年前に別れた妻と再開するところから始まります。
小説は、別れた妻との間で交わした14通の手紙で構成されています。
離婚当時の事情からはじまり、相手を責めたり、詫びたり、悔いたりします。
結局、今の自分は過去の行動の結果。
宿命や運命のせいにして生きるのではなく、過去を受け入れ、自分を受け入れ、お互いがそれぞれの道を前向きに生きるようになるストーリーです。
再会して、再び結ばれるというような安直なものではありません。
読後に、春のちょっと切ない、けれど優しい暖かさを感じます。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」も、そういう感情が込み上がります。


タイトルがタイトルだけに、オッサンが映画館でチケット購入の際、劇場スタッフに伝えるのが恥ずかしいものがあります。
もし、年配の人がもっと観てくれたら、そういう人達は口コミの発信影響力が大きいので、もっとヒットしたのではないかと思います。


案外、海外でリメイクされてヒットし、逆輸入されてからの方が評価が高まるような気がします。


※※※


【その他の部分の感想】


・劇中、ほとんどが福士蒼汰さん・小松菜奈さんだけの二人芝居です。
だからその分、この二人の演じるキャラクターを丁寧に表現できています。
それに応えるように、2人の役者は、ちゃんと目で演じていました。
特に、SF設定によって、幼いころの相手に出会った時の表情が良かった。
どちらも、本来ならバッドエンドな未来なのに、悲しい事実を受け入れて強くなった姿が、本当に画面から感じることができたのです。


・福士蒼汰さんの生きる世界と、小松菜奈さんが生きる世界は、時間が逆方向に進んでいます。
5年に1回、30日だけ交わります。
小松菜奈さんの方からしか、福士蒼汰さんの世界に行けません。


お互いが20歳の時は、同じ年齢の相手と出会えます。


福士蒼汰さんが25歳の時、小松菜奈さんは15歳の姿です。
福士蒼汰さんが30歳の時、小松菜奈さんは10歳の姿です。
福士蒼汰さんが35歳の時、小松菜奈さんは5歳の姿です。


小松菜奈さんが25歳の時、福士蒼汰さんは15歳の姿です。
小松菜奈さんが30歳の時、福士蒼汰さんは10歳の姿です。
小松菜奈さんが35歳の時、福士蒼汰さんは5歳の姿です。


同じ時間が繰り返されるわけではありません。
相手がどんどん若くなるということは、お互いが共有した楽しい時間が無くなり、どんどんよそよそしい間柄になってしまうのですからね。
好きな人が目の前にいるのに、思い出を共有していない他人だというのは辛いものです。
(その辺のSF設定は、もうちょっと細かいのですが割愛)


・折々で、小松菜奈さんはそういう設定を知っていることを伏線として描いています。
設定としてだけ描くならば誰でもできるのですが、二人は結ばれない運命だという悲しい事実を我慢し受け入れ、それでも笑顔を相手に向ける健気さが、画面からにじみ出ていました。
小松菜奈さんという女優さんを正直、そんなに知らなかったのですが、まだ20歳の若さで表現できているのがすごいですね。
単なるモデルあがりではありません。


最近、マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙 -サイレンス-」の公開にあわせて、各メディアに出ていますね。
その際は、モロにモデル然とした髪型・メイク・衣装です。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」では、ものすごくシンプルで、本当にまちなかにいそうな感じです。
けれど、すごく魅力的に見えるのです。
見た目、ハーフっぽい感じですが、劇中だと昔の文学小説に出てきそうな、日本的な美しさが出ていました。
福士蒼汰さんが電車の中で、読書をしている小松菜奈さんに一目惚れするのですが、「これは本当に一目惚れするは」と納得してしまいました。


・時間を扱ったSFではありますが、同じ事象を繰り返していくのではありません。
福士蒼汰さんから見れば、とても楽しいごく普通のデートです。
それを悲しい事実を知っている小松菜奈さんから観たアングルで、再度画面に映し出した際には、グッとこみ上げるものがありました。
同じ出来事でも、福士蒼汰さん側から観るとエロゲー的な楽しい展開が、小松菜奈さん側から観ると悲しいお話しというのが、ちゃんと観る側に伝わる丁寧な作品でした。


・SF、SFと書いていますが、CGとか特殊効果は一切ありません。
せいぜい一箇所、祭り露店爆発事故の数秒ぐらい。
そのSF設定すら、ぼんやりぼやかしており、観ている人に無理強いしていません。
舞台は、ちょっと昭和の香りのするレトロな風景。
今どきの美男美女は、こういう風景にもとても似合うものなのですね。
実際に、その撮影した場所を訪れたくなりましたよ。


・すっかり、小松菜奈さんに魅了されました。
彼女は今度、NHKのドラマにも出ますよ。
まだ二十歳で、これだけ演技できるのならば、いずれ朝ドラの主人公をやる日も近いのではないでしょうかね。


●小松菜奈、山本耕史 主演「スリル!〜赤の章・黒の章〜」制作開始! _ お知らせ _ NHKドラマ
http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/259045.html



小松菜奈って一体何者?

Posted by kanzaki at 2017年01月25日 22:22