2021年08月21日

映画の製作費は、撮影日数が決定する〜段取りでコストは削減できる

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●『1分間をムダにしない技術 (PHP新書)』(和田秀樹, 和田 秀樹 著)より


【段取りでコストは削減できる】


映画をつくるときに、衣装は専門の衣装屋さんに借りていたが、その社長さんが私に「そんなことじゃ、一生映画は撮れないよ」とアドバイスしてくれた。


「映画というのは、この期間内に撮る、と決めて撮らないと、プロの役者だって、プロのスタッフだって動いてくれない。
君たちは、アマチュアのスタッフを使っていたから段取りが悪くても許されたかもしれないけど、プロになったらそれは許されない。
たしかに、アマチュアのスタッフを使っていたから、時間のことをあまり意識せずに段取りを組んでいた。
しかし、プロの役者とプロのスタッフを使って映画を撮るなら、無制限に時間を使えるわけではない。」


衣装屋の社長さんは、「段取りを覚えなければ、映画は撮れない」ということを教えてくれた。
「日本でいちばん段取りのいい監督につけてやるから、ともかく段取りを覚えろ」と言って、「衣装アシスタント」ということで、撮影現場に連れていってくれた。


連れていかれたのは「土曜ワイド劇場」の撮影現場だった。
日本でいちばん段取りのいい監督というのは、故・富本壮吉さんだった。


富本監督は、山口百恵、三浦友和主演の『泥だらけの純情』という映画を、百恵さんのスケジュールが三日しか空いていないのに撮ってしまったという伝説がある監督だ。


どうしてそのようなことが可能かというと、百恵さんのスケジュールが空いているときに、「寄り」と「ミドル」のシーンをすべて先に撮ってしまって、「引き」はスタントで撮るというやり方で撮っていったからだ。


映画のつながりを完璧に理解できていないと、そのような撮り方はできない。


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いかにムダなく撮影をして、ムダなくつなぐことができるかが監督の腕の見せ所である。
そのためには段取りがとても重要になってくるのだ。


撮影に立ち会ってわかったのは、段取りなどのスケジュール管理をするのは、チーフ助監督の仕事だということだった。
そのときは今は『夕凪の街 桜の国』などのプロデューサーとして知られる米山紳さんがチーフ助監督だったが、米山さんはほとんど撮影現場にはおらず、次の現場に行っているくらいだった。


時間をムダにしないように、次の撮影現場に行って準備をしておくのが、チーフ助監督の仕事なのだ。
この日の撮影は、予定終了時刻は五時だったが、五時前には終了した。
さすが富本監督である。
もちろん、米山助監督との名コンビがあったからでもある。


※※※


プロがつくる映画は、撮影日数が一日延びると200万円から300万円の追加制作費がかかるそうです。
スタッフの人件費、機材車や各種機材のレンタル料だけで、最低でも200万円。
下手をすると400〜500万円かかる場合も。
「撮影日数が制作費を決定する」といってもいい状態です。


我々の仕事以上に、段取りが大切な業界なのです。
お金が、目に見える形でどんどんかかりますから。


現在、日本も海外も、撮影を最大限効率化するためあらゆる手法を用いています。


例えば、ひとつのシーンを複数台のカメラで、あらゆるアングルから同時撮影します。
多くのスタッフを長時間拘束するより、機材を最初から買い足しておいた方が安くつきます。
シーンの取り漏らしも防げます。


大物俳優同士の共演の場合なら、スケジュールを抑えるのが大変なので、別の人で撮影しておき、あとでCGで合成するなんてのもあります。


映画撮影から見たマネジメント術・スケジュール管理術の本を誰か書いて欲しいものです。

Posted by kanzaki at 2021年08月21日 07:05