2021年08月22日

映画『キネマの神様』の感想〜昭和の時代、映画界に活気があった頃の雰囲気が存分に味わえます

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●映画『キネマの神様』公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/kinema-kamisama/


映画『キネマの神様』【主題歌予告】


・先週、山田洋次監督作品「キネマの神様」を観てきました。
松竹映画の100周年を記念した、映画を題材にした作品です。
現代パートを沢田研二さん・宮本信子さん、過去パートの同役を菅田将暉さん・永野芽郁さんが演じています。


・原作は、映画を観て映画論評を書くのが好きな老人が主人公です。
観客の目線で映画を楽しむ人です。


・一方、映画版の主人公は、若い頃に映画制作会社で働き、せっかく監督を任せられたのに挫折した人物です。
その主人公の若い頃と現代を描きます。
作品を提供する側の目線です。


・多分、新型コロナウイルスに関する部分は、脚本が完成したあとから手を加えたのかな?
松竹100周年の節目なのに、映画界が大きく打撃を受けたわけですが、それを超えようというメッセージ性が高まったように思います。


・昭和の時代、映画界に活気があった頃の雰囲気が存分に味わえます。
それを感じるだけでも見る価値がありますよ。


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【過去パートがいい】


・昭和の時代から映画製作に携わっている山田洋次監督ですから、映画論評より映画製作のお話しにしたのは正解だったように思います。
昭和時代の映画製作に関するエピソードや、当時の雰囲気の再現に、物凄くこだわりが感じられたからです。


・主人公の若い頃のエピソードの殆どは、映画製作の撮影所を中心に描きます。
過去エピソードの映像は、粒子の粗いモノクロ映像にあとから彩色したかのような感じです。
まるで本当に、昔の映像みたいで良かったですよ。
映像の色温度が高めで、オレンジ色や茶色のような暖色系な色合いとなっています。


・各シーンの構図も、ひとつひとつ拘っているのが、素人の私にも十分に伝わってきます。
必ず、「奥行きのある映像」になっているのです。
人が複数いたら、必ず手前と奥に配置します。
さらに、それらの人物の手前に、手すりや窓の格子なんかを配置しています。
3段階に奥行きを表現することで、2次元の映像が3次元に感じられ、芸術的なセンスを味わえます。


・過去パート(昭和前半)の人たちの話し方は、誰もが現代と違って抑揚を抑え、ゆっくり話しているような気がしました。
「東京物語」という昔の映画をちょっと観たことがあるのですが、その作品の登場人物たちのような話し方です。
現代は情報過多で、一般人でも早口で情報量の多い話し方をします。
劇中、令和の現代パートは、ごく普通のドラマで耳にするような話し方、テンポです。
映像の構図も、過去パートと違って平面的。
撮影時、その違いを意識していたのではないかなと思いました。


・大船撮影所の、昭和の雰囲気がいいですね。
決して清潔でスタイリッシュではないのですが、手作りで作り上げている雰囲気がものすごく感じられる場所です。
今なお、地方の金属関係の工場が、こういう感じです。
なんとなく気温が高めで、油の匂いがする雰囲気。


・主人公の若い頃を菅田将暉さんが演じています。
映画に対する熱さがイキイキと描かれています。
山田監督が、ご自身の若い頃を重ねて撮影したのではないかと感じました。
設定上、ギャンブルや酒好きとなっているのですが、本編では映像としてそういうシーンはまったくないです。
だから、老いてからのギャンブル・酒まみれという姿と結びつかないんですよね。
あえて、そういうところは外しているように思います。


・もっと、若い頃の主人公の活躍を観たかったです。
この映画、現代パートに内容も時間も比重を置いています。
映画の予告や宣伝だと、過去パートに比重を置いています。
そのせいで観ている方は、その比重のギャップを残念に思います。
うだつの上がらない、グダグダしている老人になってからの姿に魅力は感じにくいです。
過去パートは、菅田将暉さんの演技のおかげで、映画が大好きだという感情が十分に伝わります。
それゆえ、ちょっとしたことがきっかけで、映画撮影所をあっさり辞めてしまうのが、どうにも理解できません。
その辛さを超えることこそが物語なんだと思うからです。
しかも残念なことに、退職して地元に帰ってからのことが一切描かれていません。


・後に主人公の妻となる女性を永野芽郁さんが演じます。
本当に、昭和の女の子の雰囲気が出ていてほんわかします。
「ドラえもん」に出てくるしずかちゃんみたい。
しかも、老いてからの役を演じる宮本信子さんと、自然につながるのですよね。
二人が同じような仕草・表情をされるので驚きました。
劇中だと、永野芽郁さん演じるヒロインは、本当にしずかちゃん的なことしか出来ていません。
主人公が故郷へ帰るのを北川景子さん演じる女優さんの運転するクルマに乗って追いかけるのですが、そこで過去パートがおしまい。
その後、どうやって主人公を支えてきたのか、どう苦労したのかが分かりません。
むしろ、その後の活躍を観たかったです。
永野芽郁さんならば、そういう苦労の部分を目いっぱい演技してくれたはず。
そこが勿体なかったです。


・主人公の現代パートを志村けんさんに代わり、沢田研二さんが演じます。
お二方は似ていますよね。
特に声が似ているので、おちゃらけたシーンとかは、「志村けんさんならばこう演じたはず」と思える見事な演技でした。
急遽の代役を引き受けてくださり、観る側からしても感謝です。


・映画女優の役を北川景子さんが演じています。
たたずまいや話し方等、令和の時代とは全く違う、往年の映画女優を見事に再現していました。
映画女優としての気品やプライドが感じられるのですよ。


・映画監督役のリリーフランキーさんの役が、これまたいい味出しています。
多分、映画界以外ではまったく役立たずな無茶苦茶なキャラなのですが、人を描く立場だからこそ良き理解者なんだと感じさせる人物でした。


・現代パート、私のお気に入り俳優である原田泰造さんが出演しています。
ワンシーンのみ。
ギャンブルで借金を背負う人の家族の会の主催者です。
どうやって立ち直らせるか等を雄弁に説明します。
もったいない・・・。
もっと活躍してほしかった・・・。
背丈もあるし、昭和の雰囲気もある。
過去パートの俳優役、制作現場のカメラマンなど、いくらでもこなしてくれていたと思います。


・あまりにも過去パートの雰囲気が良かったので、全て過去パートだけでやっても良かったかもとも思いました。
できれば、主人公が書いた脚本「キネマの神様」の撮影をすべてやり切って欲しかったです(なにかの理由で、上映できず、幻の作品という形でもいい)。
過去パートは映像や雰囲気、キャラが良かっただけに、なにひとつ「完成したモノ」「ゴール」が無かったのが残念です。


・もしくは、主人公が若くして挫折し故郷に帰ってからも、それでもやはり映画界に憧れがあり、違う形で映画と付き合っていく姿(シネマ支配人とか)でも良かったのではないでしょうか。
そうすれば、一人の人物を通し、制作者・上映者・観客の3つの視点から映画というものを描けたかも。
夫婦になったあと、主人公と妻の行動こそがむしろ観たいとも感じました。
しかし、活躍すればするほど、老いてからの主人公のダメさ加減が信じられなくなりますが・・・。

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【まだ、原作との間違い探しをしなかった時代】


・昔の映画作品でも、原作モノはたくさんあります。
しかし、そこまで原作を意識して観ることって無かったように思うのは私だけでしょうか。
例えば、宮崎駿監督のジブリ作品の殆どは原作ありですが、むしろ原作を読んだことが無い人が殆どでは。


・今は、映画・ドラマ・アニメどのジャンルでも、人気の原作の映像化がほとんどです。
脚本家オリジナル作品は少なく、テレビだと低予算・深夜枠に追いやられがちです。


・現在、映像作品の鑑賞の仕方って、「原作との間違い探し」になっています。
少しでも原作と出演者の雰囲気が違えば、即炎上。
ピッタリだと、即神作品扱い。
0か100で、長いこと語り継がれるような作品は少なくなっています。


・月額定額で全ての作品が見放題というサービスも当たり前になってきました。
ひとつひとつの作品に対する扱いは、随分と軽くなりました。
映像との接し方が大分変りましたね。


・そういや昔の映画館って、今のような上映ごとに観客を総入れ替えということは無かったですよね。
お尻の痛さを我慢すれば、何度でも観ることができました。
別々の作品を「同時上映」するというのも当たり前でした。
1980年公開、東宝映画「モスラ対ゴジラ」と「ドラえもん のび太の恐竜」は、同時上映で記憶に鮮明に残っていますよ。
「東映まんがまつり」はまさに複数の作品の組み合わせによるお祭りでしたね。


・幼い頃の記憶なのですが、「さらば宇宙戦艦ヤマト」の上映の際、あまりにも観客が多くて、座席に座れない人がたくさんいました。
そういう人は、後ろの方に立って観たり、階段状のところに腰かけて観てました。
それはそれで、活気があってよかったです。


・私がはじめて洋画作品を観たのは、「スーパーマン」の第一作目です。
スーパーマンが地球を逆回転させる映像に驚きました。


・なんだか懐かしいなあ。
今回の映画で、昔の映画を思い出せてよかったです。

Posted by kanzaki at 2021年08月22日 12:21