2021年12月05日

映画『ディア・エヴァン・ハンセン』の感想〜嘘がバレたあとの母親との対話にグッときました

dear01.jpg

先週、映画『ディア・エヴァン・ハンセン』を観てきました。
昼の回、120席のうち3分の2は埋まっていました。


●映画『ディア・エヴァン・ハンセン』
https://deh-movie.jp/


映画『ディア・エヴァン・ハンセン』予告編《2021年11月26日(金)公開》


(あらすじ)
学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいるエヴァン・ハンセンが自分宛に書いた「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。
後日、コナーは自ら命を絶ち、手紙を見つけたコナーの両親は息子とエヴァンが親友だったと思い込む。
悲しみに暮れるコナーの両親をこれ以上苦しめたくないと、エヴァンは話を合わせ、コナーとのありもしない思い出を語っていく。
エヴァンの語ったエピソードが人々の心を打ち、SNSを通じて世界中に広がっていく。




【ネットと鬱】


昔と違い、世界のどこにいても情報格差は少なくなりました。
インターネットやSNSのおかげですね。


情報格差は減ったから、ポジティブな感情も均一に広まるかと期待しました。
これで世の中も穏やかで平和になるのかなあと。


ところが、ネガティブな感情の方が広がりやすかったですね。
全体的に暗い感情に平均化されているように感じます。


現在、「鬱(うつ)」「繊細さん」が普通に身近にいるのは、上記のような環境も理由ではないでしょうか。


この映画作品は、そんな時代だからこそ成立したお話しです。
「成立した」と書きましたが、成立したからこそ悲しい展開になったのです。


とにかく主人公が自殺エンドにならなくて良かった。
本当に良かった。
それはこの劇中、ある意味唯一まともな人間である「主人公の母親」の存在があったからです。
ラスト近くの主人公と母親二人の対話が一番グッときました。
是非観て欲しいです。


※※※


【ある意味、今どきの作品】


昔、外国の人って、陽気で前向きな性格、もしくは不屈の精神というイメージがありました。
それが「リーマンショック」による不況ぐらいからでしょうか、
外国の人でも「鬱」とか内向的な人がいるのだなあと認識するようになりました。
そういう内向きの性格って、日本人特有なものと思っていましたから。


今じゃどの国籍とか関係なく、きっかけがあれば鬱になってしまうものです。
劇中、リーダーシップが取れて成績優秀な女学生が出てきます。


見た目と違って心を患っているというのが、「なんだか、日本の鬱みたい」と思いました。
結局、この子のやった「●●のネット拡散」によって炎上するわけですからね。
SNSが発達したが故に、心の病が見えにくくなっているのかも。
それをこの映画作品では「匿名」という単語であらわしていたように思います。


エンドロール最後に、
「自殺したくなったら、まずはお近くの機関にご相談を」
というようなメッセージがショッキングでした。
日本特有のものじゃないのねと。


※※※


【嘘がバレた後の世界】


この映画作品を観終わったあと、ダスティン・ホフマン主演の「トッツィー」を思い出しました。
売れない男性俳優が、女装のドロシーに扮装することで好転していくけれど、それは言ってみれば大きな「嘘」。
話しが進むごとに、好きな女性に真実を打ち明けにくい状況へ。
最後に生放送でカミングアウト→相手へ詫びて告白→なんだかんだでハッピーエンド。


「ディア・エヴァン・ハンセン」は、そこまでハッピーエンドじゃないけれど、元恋人とそれなりに相互理解は出来たのが救いかなと思います。
(そういうところも現代的でリアル)


本当に、主人公が自殺しなくて良かったです。
もし、自殺エンドだったら、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」並みのトラウマ映画として君臨していたかも。


真実の告白後、学校の中で生活するのなんて本当に辛いはずです。
以前より辛い立場なのに、かえって前進して生きるのが凄いです。


※※※


【リアルな世界での母親の存在】

dear02.jpg


真実の告白後、主人公にとって母親の存在が大きいなあと思いました。


世界中を敵に回しても守ってくれる存在。
劇中、唯一最初から最後まで筋が通っている「まともな人」だと思いました。


日々の忙しさ、金銭的な事があって、映画後半になるまでなかなか息子と相互理解はできなかったけれど、とてもいい人ですよ。
恋人の裕福な専業主婦との対比が、かなり鮮明に描かれていました。
(こちらのお母ちゃんは、日本だと新興宗教にハマりそうで本気でやばい)


この映画は「優しい嘘」がきっかけで話しが展開します。
実は、「もう一つの悲しい嘘」が隠されています。
こちらの嘘にぐっときました。
そして、主人公が死ななかったのは、この母親がいたからです。


恥ずかしながら、私はこの作品に出ている俳優を誰も知りません。
有名な方々らしいので、申し訳ないのですが。
しかし、かえってこの映画のキーワードである「匿名」な感じがありました。
「これは実際、ちょっとしたきっかけで本当にありえてしまうよなあ」
そんな危険性を感じることが出来ました。


私はこの映画を他人事のように感じられず、身につまされます。
誰しも多かれ少なかれ、嘘が発端の辛い出来事ってあると思うのです。
それがいつバレやしないかとドキドキしたり、バレた後の周囲の視線に耐えて生きていくことの辛さ等を知っている人には、この映画はかなり大きな存在だと思いますよ。


ミュージカルなのですが、私は別段違和感を感じませんでした。
大抵のミュージカルは、心理描写を明るく表現するのに使うけれどこの映画は真逆。
内向きな心の描写を普通の映像表現で語るのも良いのですが、今回のようなやり方もアリだと思いました。


※※※


全体的には暗いお話し。


けれど、なんでだろう。


「ショーシャンクの空に」を観終わった後のような感じもするのです。
あの作品のラストは、メキシコの海辺の景色だったかな。
今回の作品、最後に主人公がいる場所の景色も綺麗でした。


他人の冷たい視線も無く、美しい景色が広がっており、これは救いでした。


どうか機会があったらご覧いただければと思います。

Posted by kanzaki at 2021年12月05日 16:16