●『生きるための哲学』(白取春彦 著)より
「苦悩は深い意味を持って人の生命に属している・・・哲学者フランクル」
たった一つの正答などない。
わたしたちが目を覚まさなければならないのは、いくら観念や概念の中身を追い求めたところで、期待していた恒常的な正答、すなわちワンサイズの答えなど最初から存在しないということだ。
ワンサイズの洋服だけ売る店がないように。
もし、真理とは何か、真善美とは何か、といった事柄についてたった一つの正答があったとしよう。
そして、その正答が発見されたとしよう。
すると、どうなるか。
思考実験をしてみればすぐわかるはずだ。
わたしたちは脱力するだろう、また曖昧でこのうえなく混沌としていたこの世界が、一瞬で無意味な茫漠とした世界になるだろう。
今のよくわからない状態はもどかしいものではあるけれど、霧の中を歩くように神秘的な状態でもある。
しかし神秘的ということは、人にとってこのうえなく魅力的だということでもあるのだ。
また、わからないからこそ、自分が生きてみる価値が見出せるというものだ。
他人ではなく、この自分が生きてみて初めて、昔から言われてきた幸福だの真理だの永遠の美だのといったものの回答内容を自分の人生をもって埋めることができるからだ。
それ以上におもしろいことが他にあろうか。
学者が頭で考えた価値や意味に合わせた価値や生き方など生きるに値しないであろう。
だから、わたしたちはこの今を泣き笑いしながら生きるのだ。
それ以上の幸福がどこにあろうか。
※※※
【コメント】
自分の人生を生きる。
この今を泣き笑いしながら生きる。
他人からの評価の中で、びくびくしながら生きるのって、やはり嫌ですよねえ。
だからといって、なにも考えず他人に迷惑をかけて生きていくわけにもいかない。
自分の居場所は変えずとも、「自分の人生」を意識するだけでも、大分生き方、心の充足は変わってくるように思います。
幼い頃、大人が運転するクルマの後部座席に座っていれば、いつの間にやら遠くの場所へ着くことは出来ました。
けれどそういう場合、あまり記憶に残ってはいません。
自転車をこいで、自分の力と判断だけで移動したことの方が、よほど記憶に残っています。
たとえそれが、数キロ先の移動であってもです。
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