2023年07月02日

映画『オレンジ・ランプ』の感想〜これこそ福祉社会だよなあと感心しました

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●映画『オレンジ・ランプ』公式サイト
https://www.orange-lamp.com/


監督:三原光尋
原作:山国秀幸
脚本:金杉弘子、山国秀幸
出演:貫地谷しほり、和田正人


【あらすじ】

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんの実話をもとに、貫地谷しほりと和田正人主演で描く、夫婦の希望と再生を描いたドラマ。

39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された只野晃一は、妻と2人の娘を抱え、不安に押し潰されそうになる厳しい現実に直面していた。
そんな晃一に妻の真央は何でもやってあげようとするが、晃一は日ごとに元気がなくなっていった。
しかし、ある出会いをきっかけに真央と晃一の意識に変化が訪れる。「人生をあきらめなくてもいい」と彼らが気づいたことにより、家庭や職場、地域など2人を取り巻く世界もまた、変化していく。

2023年製作/99分


映画『オレンジ・ランプ』本予告 6/30(金)公開!

※※※

【感想】

前日の夜まで、「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」を観るつもりでしたが、実際に鑑賞された方の残念作という声を聞き、急遽変更。
結果、良作を鑑賞出来て良かったですよ。
(インディー博士はWowowで放送したら観よう)


テーマが認知症ということもあり、客席も年配の方が多かったです。


若年性認知症になり、全国を講演して回っている実在の人物を描いています。
厚生労働省やいろんな福祉系団体がバックアップしているだけあり、認知症に対する啓蒙活動的な内容。
そういうのもあって、悲壮感が無くて良かったなあ。


若いのに自分が認知症になってしまった事を受け入れられない苦悩や、心配や世話を焼かれすぎて嫌になる心情とかよく伝わってきました。
そういう部分が多すぎると観ている方が嫌になってしまうところですが、そのさじ加減がちょうど良かったです。


奥さんが辛抱強く笑顔で旦那さんに接するのが素敵だったなあ。
そして、最初は奥さんに八つ当たりしていた旦那さんが、油性マジックで手のひらに「怒らない!!」と書いて決意したのも良かったなあ。
物凄い勇気だと思うのです。
怒らない、負の感情を抑えることが第一歩だと。


昨今の邦画は、あることきっかけに家庭不和になって一家散財を描くバッドエンディングパターンが多いです。
「徹底的に不幸を描くのが良い作品」と勘違いしている作品が多いです。
そんなの観て、なにが楽しいんだと疑問に思っていました。
そういう意味でも、本作は良作ですよ。


旦那さんは、嫌々ながら若年性認知症の人たちの集まりに行きます。
そこで自分と同じようにバリバリの営業マンだった人が、どうやって工夫してそれ以降も働いてきたかを聞いてから、少しずつ変わっていきます。


認知症になっても、当事者が「基本、自分でやる。困った時だけ助けを求める」というスタンス。
薬で進行は遅らせられるけれど完治できない病。
けれど、どうやったら一般社会で生活できるかを道具を使ったりして工夫し、笑顔で会社や社会と接している姿が良かったですよ。
演じた和田正人さんにピッタリの役柄でした。
そういう姿勢だからこそ、家族や会社、社会もフォローしてくださるのでしょうね。


一番感心して、尚且つ心が温まったのは、認知症の旦那さんが会社帰り、帰る道が分からなくなったシーンです。
近くを通った女性に、「私は認知症です」というカードを見せて助けを求めます。
さらにそこを通った男性会社員が、そのカードの裏に書かれた住所を確認。
自宅方向へ向かうバス停に案内します。
そこでその会社員が、バス停にいた若い女性に、「この人の降りるバス停に近づいたら、この人に合図してあげてください」とお願いします。
そのおかげで無事、旦那さんは自宅へ帰ることが出来ました。
良心の連鎖がよく表れており、「これこそ福祉社会だよなあ」と感心しました。


旦那さんは自分のことや家族のこと、仕事のこと等を日々、ノートに書いて記憶の補完をしています。
自分が抱えていた顧客のいろんな情報をノートに書いて、職場の仲間の仕事をフォローする。
預かった書類を社内の別の階へ運ぶ。
全く記憶が無くなった訳じゃないから、出来るところからやっていく。
それと、スマートフォンのカレンダーリマインダー機能(この時間になったら、どこで何をするのか画面に表示される)を使ったりして、記憶がなくなっても日常社会で働き続けています。
単に支えてもらうだけじゃなく、積極的に笑顔で関わっているのが好感持てましたよ。


奥さんも最初はどういう接し方が良いのか分からなく、過保護になりすぎていたけれど(そりゃあ突然だし、何も情報が無いのだもの)、徐々に旦那さんとの良い塩梅の暮らし方が出来ていきます。
劇中の行動、表情を見るに、本当にできた奥さんだと思いましたよ。


嫌な人が出てきません。
理解のある方々ばかりが登場します。
理想的すぎるかもしれないけれど、その理想を形にできるのが映画です。
本当に良かったですよ。

Posted by kanzaki at 2023年07月02日 21:48