2023年08月11日

映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』の感想〜今の若い人たちに辛い部分を背負わせている現状を描いていました

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●『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』
https://www.shinchan-movie.com/

・監督/脚本:大根仁
・原作:臼井儀人
・声優:小林由美子、鬼頭明里、松坂桃李

【あらすじ】


幅広い世代に愛される人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のシリーズ初となる3DCGアニメーション作品。


西暦2023年の夏、宇宙から白と黒の2つの光が地球に降り注ぎ、しんのすけに白い光が命中。
不思議なパワーがみなぎるしんのすけは、エスパーとして覚醒する。
そして、もう一方の黒い光を浴びた男・非理谷充(ひりや・みつる)もまた、エスパーとなった。


バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていた非理谷は、力を手に入れたことで世界への復讐を企む。
破滅を望む非理谷と、それを止めようとするしんのすけの、超能力バトルが幕を開ける。



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【感想】


「クレヨンしんちゃん」は、「週刊漫画アクション」で連載していた頃から読んでました。
アニメ化が決定したときは驚きましたが、今なおこうしてアニメが続いているのですから凄いですね。


PTAが、子供に見せたくない番組としてやり玉に挙げられていた中、「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」のような「感動」「泣き」を意識したものが公開され、俄然注目されました。


その後、興行収入が低迷し、ギャグに原点回帰してV字回復(コロナ禍もあって波はありますが)して今に至ります。


今回の映画は、「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」に近いようなものがあります。
さりとて、その2作品ほどは感動とかはありません。


日本の現状を描く内容です。
けれど、我々一般人にはどうすることもできません。


しんちゃんのお父さん・野原ひろしが、そういう現状に関して良いことを劇中で言っていたように思うのですが、記憶には残っていません。
TVアニメ版で「手取り約30万円」と語られた回があったので、35歳で年収約600万円。
家族持ち・住宅クルマのローンありなので楽ではありませんが、その年齢なら勝ち組の部類ですよ。


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子供は一発ギャグ的なものは即反応して笑っていました。
説明調になってしまいそうな部分は、子どもたちを飽きさせないようにギャグを交えていました(子供がそこを理解できているかは不明ですが)。


3DCGだから、いくらでもSF、ファンタジーの世界観で描けるところをあえて登場人物たちの住んでいる町だけで描いていました。
しかし、3Dの良さを活かしていたのは、冒頭のみさえとしんちゃんの町内の追いかけっこぐらいかなあ。
あとは2Dでも影響ない内容でした。
3Dの意味は正直ありませんでした(綺麗だったけれど)。


現代の日本、今の若い人たちに辛い部分を背負わせている現状を描いていました。
松坂桃李さんの演じた敵キャラは、最後はみんなと食事していたけれど、幼稚園の立て籠もり事件を引き起こしているし、逮捕されて罪を償う辛い現実が待っています・・・。
しんちゃんの世界でそういうのはリアルすぎるので、そういう意味では、SFやファンタジー世界での出来事にして、悪役が改心したあとは平凡な日常を正しく暮らす結末の方が良かったかも。


松坂桃李さん演じる悪役が幼稚園の立てこもりの際、子どもたちが悪役の超能力で壁に身体を叩きつけられるシーンは嫌だったなあ。
後半、しんちゃんが中学生(高校生?)ぐらいの大きな男の子たちに暴力を受ける喧嘩シーンも嫌だったなあ。


モンスターとか架空の敵との戦いでダメージを受けるシーンと違い、弱者が悪意のある大人に暴力を受けるのは、観ていて辛いです。
超能力も今回の映画のエッセンスなので、もう少しヒネリを効かせた展開が欲しかったです。
しかも、そのシーン長いし・・・。


社会風刺として、今の若い人たちに辛い部分を背負わせている現状を描くのは理解できます。
世代は違いますが、私は就職氷河期世代なので、将来に明るいものを期待しておりませんから。
しかし、それは理解できるけれど、この映画の客層とは違うような・・・。


松坂桃李さん演じる悪役は、いわゆる男性の社会的弱者です。
これ、性別が女性だったら炎上していたかも。
このキャラの人生背景を描くのに時間を結構割いていて、同じ社会的弱者としては辛いです・・・。
こういうキャラが、主人公の敵として大暴れするというのは、アメリカのスパイダーマンの敵っぽいですよね。


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タイトルに「とべとべ手巻き寿司」とあるように、超能力の他に食べ物をテーマの語り部としてあれこれ使っていました。


家族が自宅で食べる手巻き寿司は、しんちゃんの家庭では幸せの象徴です。
ところが、松坂桃李さん演じる悪役の場合、「お父さんお母さんが離婚して家族がバラバラになる最後の日」に食べた悲しい思い出の食べ物です。
そういう意味では、なんだかんだで悪役が改心し、最後に登場人物全員で手巻き寿司を食べるシーンは良かったですよ。
(まあ、その後は警察に逮捕されることになるのでしょうが・・・)


幼稚園に、子どもたちが描いた絵が貼られています。
しんちゃんの描いた絵は、パッと見、真っ白。
よく見ると、白で◯をいくつも描いています。
確か、「いつでもご飯が食べられて、食うに困らない世界になりますように」みたいな意味の絵です。
このご飯の絵は、なかなか意味が深いですね。
実は今の日本って、貧困が蔓延していますから。


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日本のリアルな辛い部分を描いたのは、子供向け作品として良いのか悪いのか良くわかりません。
けれど、どうせ3DCG、しかもしんちゃんなのですから、もうちょっとファンタジーとか比喩的表現の方が良かったのでは?

Posted by kanzaki at 2023年08月11日 18:03