2006年10月22日

筋を通す

最近、見たいと思う映画・ドラマが少なくっています。
別に映像技術は否定しません。
むしろ過去より向上しています。
けれど、なにかが足りない。
それは「名台詞」なのではないかと。

大抵、名台詞は現実世界じゃ云わないような言葉だったり、舞台台詞っぽいものが多く、リアリティはありません。
けれど、そういうものが無いと、十年以上経った後にその作品を思い出すことができなくなります。

小さい頃に見た特撮やアニメを覚えていますか?
断片的な映像や、わずかばかりの設定は覚えていても、細かいプロットを覚えている人は皆無ではないでしょうか。
今でも覚えている人は、大人になってから再放送なり、ビデオ等で見たからだと思います。

殆どの人は、本編よりも主題歌を覚えていませんか?
あれは毎回必ず流れるしリズムがあるから、自然と記憶して脳に定着しているのではないかと。

それと、インパクトのあるシーンや台詞。
ウルトラマンタロウの首がすっとんだ日には、いやがおうにも記憶しちゃいますよ。

昔、「101回目のプロポーズ」と云う高視聴率を生んだドラマがありました。
あれは現実離れした内容です。
そして名台詞と呼ばれるものも、現実離れしたものばかり。

「僕は誓う!50年後の君を、今と変わらず愛している!」
「僕は死にません。僕は死にません。あなたが好きだから、僕は死にません。僕が幸せにしますから」
「泣くんです。心が泣くんです。あなたに、会えないと思うと、ピーピーピーピー心が泣くんです。これから、秋が来て、冬が来て、春が来て、夏が来て、それでも僕の心は、ずっと泣いていると思います。だから、自分の夢も、あなたも、あきらめません。もう一度、男として、あなたを取り返します」

武田鉄矢さんが絶叫して「僕は死にましぇん」と云った名台詞は、同年の流行語にもなりました。
どれもリアル志向を目指す作品では、絶対に出てこないようなものばかりです。
けれど、そういう台詞の方が何年経過しても頭に残っています。

不思議なものですね。
技術が向上すると作風がリアル志向になっていき、その方が作り手は「凄い作品」と息巻くのに、実際は今ひとつの視聴率で終わることが多いです。
最近、視聴率が高いドラマ・興行収入の多い映画は、リアル志向からは遠く離れたものが多いように感じます。
ドラマだと「ごくせん」とか、映画だと「踊る大捜査線シリーズ」とか。

割かし真面目志向な形でヒットしたものだと「世界の中心で愛を叫ぶ」「今、会いにいきます」等がありますが、両作品とも「名台詞」が思い浮かびません。
だから、全体的には良い作品だよなあとは思っても、強烈な名シーン・名台詞を他の人に伝えたりできません。

名台詞の中には、視聴している人の生きる糧になりそうな言葉も多いですよね。
これもまた、最近はあまりない。

そんな名台詞と呼ばれ、世間一般に浸透するかどうかは分からないけれど、名台詞が登場しそうな予感のドラマがあります。
それはTBS系ドラマ「セーラー服と機関銃」。

●TBS「セーラー服と機関銃」
http://www.tbs.co.jp/kikanjyu2006/

・神崎のナナメ読み: 10月スタートのテレビドラマの感想3:「セーラー服と機関銃」
http://kanzaki.sub.jp/archives/001152.html

女子高校生がヤクザの組長になると云う設定そのものが、既に現実離れしています。
また、死と隣り合わせな状況で展開しているせいか、やけに舞台っぽい・現実離れな台詞ばかりなのですが、逆に記憶に残る台詞が多いです。
ヤクザの世界ですから、啖呵をきった威勢の良い台詞だからと云うのも、理由かもしれません。

例えば第二話から引用しますと、

目高組の組員・金造が、佐久間に「守るものがなきゃ生きてる張りがねえ」と云う台詞。
まさに、佐久間と主人公・星泉の関係を表す言葉。

殺された父から主人公・星泉への手紙。
「泉はしっかりした、いい子だったとよ。ひとつ云わせてもらうと、少し生真面目と云うかしっかりしずぎた所がある。決して悪いことじゃないけれど、いろいろなことを一人で抱え込んでパンクしないように。もし、パンクしそうになったら、これは昔、お父さんのオジサンに云われた言葉だけれど、"筋を通す"それだけを考えて行動してみるといいよ。たとえ上手くいかなくても、自分の中で一本筋が通っていれば、きっと路は開けると思う・・・がんばれよ。父より」

目高組八代目組長を襲名したものの、若い衆から認めてもらえずトラブル続きで落ち込んでいた主人公ですが、上記の手紙のおかげで再び立ち上がります。

敵の組に捕らわれた若い組員を助けに行くシーンで、その「筋を通す」ことをします。
そして「だまってちゃんと見てろ! 子供のケツを拭くのは親の務めですから」と啖呵を切るのは、勢いがあっていい。
そのおかげで、今まで主人公を組長として認めてなかった若い組員たちも認めるようになります。

"筋を通す"・・・いい言葉ですね。
「首尾を一貫させる」「道理にかなうようにする」という意味です。
普通の人は、長い人生を歩むのですから、いろいろとわき道にそれたりしながら生きていきます。
それが当たり前。
でも、首尾一貫した生き方をしている人を見ますと、粋だねえと思います。

そこまで大上段に構えなくても、「筋を通す」場面は多々あります。
例えば仕事で、何か一つトラブルが発生したとします。
その解決方法を色んな人に聞いてみるけれど、みんな違った答え(それぞれに納得できることがあるので否定は出来ない)。
結局最後は自分で最終的な案を考えて稟議書を書き、役員の決裁を仰ぐことになります。
その際、自分の書いた意見通りに決裁になることが殆どです。

どうしてかと云うと、起案書にトラブルの内容を書いて、後は「指示してください」と書くのではなく、ちゃんと専門知識者として解決案を書いているからだと思います。
専門知識による考えは、その専門知識を持っていない人から見ますと、筋が通った首尾一貫した考えのように見えるようです。
法律を引用して解決する場合、それが特に顕著です。
法律の文面には一つ一つ、ちゃんと理由があります。
そういうものを背景にして稟議書を書くのですから、筋の通ったものになります。

私の仕事と云うのは、基本的に法律や世間の規則を使って処理するものばかりです。
知識を蓄えるのは大変ですが、逆に「どんな偉いポジションの役員とも、法律等を武器に対等に話し合いができる」とも云えます。
役員の理論が必ずしも、世間の考えとは一致しないことがあります。
それを身分が低い人が意見するのは難しい。
けれど専門知識を使い、筋の通った意見をすれば、相手は納得してくれるものです。

相手や場面によってフラフラと考えを変えない。
これは生きる上で、とても大事なのではないかと思います。
明日の月曜から、ちょっと頭の片隅にでも入れて置いてください。
これを踏まえて仕事をすると、人から信用を得られると思いますよ。

Posted by kanzaki at 2006年10月22日 13:17