今年発売された商品で、誰もがヒット商品だと頷けるものに、トヨタのプリウス(3代目)がありますよね。
このクルマのように、世の中に出る新製品が全てヒットする訳ではありません。
雑誌「PRESIDENT」によれば、「9倍効果」と言って、新製品は従来製品の9倍価値がないと売れないそうです。
日本において新製品のヒット率は26%というデータがあります。
つまり4分の3の商品が、満足のいく結果ではなかったということになります。
消費者の心理効果として、いったん入手したものの価値を最初に買ったときの価値以上に見積もる傾向があるそうです。
行動経済学では「保有効果」と言い、買い手は自分が手に入れた製品やサービスの価値を約3倍に過大評価するといわれています。
既に所有しているものを通常の3倍も過大評価していたら、機能が少し追加されたり、不満点が改良されたぐらいでは新製品を購入しようとは考えないのです。
トヨタのプリウスを買った人は、今まで所有していたクルマよりもプリウスの方が3倍の価値があると認めたからこそ買い換えたのです。
(私は、マークX以上クラウン以下のオーナーだった人達が、彼らにとって見れば200万円台という低価格ゾーンで、他人から好印象を持たれるならば安いものだと感じたからだと思います。プリウスよりワンランク上のハイブリッドカーが発売されるそうなので、またその頃には、プリウスに対する価値観が変わるかもしれませんが)
今までよりも3倍の価値のあるものが売れるならば、作り手はそれを利用すればいい。
つまり、3倍の性能を持つ商品を開発しよう!
これでヒット間違いなしだ!
・・・・・・と言いたいところですが、実はそう簡単なものではありません。
特定の人やモノとの接触回数が増えれば増えるほど、それに対する高感度が高まる現象を「単純接触効果」と呼ぶそうです。
つまり、製品開発を毎日続けることによって、その対象となる商品に対する思い入れが強くなり、客観的に見る事が出来なくなるのです。
自分がこれだけ入れ込んで作ったものなのだから、お客も自分と同じように感じてくれて買うだろうと思うのです。
トヨタのプリウスは今こそヒット商品ですが、初代はそうでもありませんでした。
ハイブリッドという革新的な技術に力を集中させすぎて、クルマ本来の操作性、スピード感が犠牲になった為にヒットしなかったといわれています。
つまりトヨタは、ハイブリッドを過大評価していたのです。
売り手は思い入れが強すぎて、3倍の過大評価となってしまった。
そして買うほうは前述のとおり、既に所有しているものを3倍に過大評価しています。
これを掛け合わせると、売り手と買い手の知覚価値には、9倍のギャップが存在することになるのです。
ハードード大学のジョン・グルビル教授はこれを「9倍効果」と名づけています。
新製品定着には、この9倍の壁を乗り越えなくてはいけません。
以上が書かれていたことの概要です。
ヒット商品を開発して収益を得ていかなければならない企業。
その新製品が発表されるたびに、ネット上で「がっかりな商品だ」「いや、これは買いだ」と語り合うユーザー。
私はちょっと、その繰り返しの輪から外れようと思う。
「9倍効果」という概念を頭に置いておけば、殆どの新製品は、わざわざ少ない収入の中から購入するに値しないものばかりだと感じるからです。
欲しいなあと思ったものに対して、「これは自分の生活にとって有益かどうか」を感覚的に捉えるのは難しい。
けれど「今、自分の手元にある旧機種と比べて、性能的に9倍以上優れているか?」と数値的に比較してみればいい。
そうすると殆どが、この「9倍」には満たない事が分かってきます。
汗水たらして手に入れたお金を湯水のごとく使えるような人は、今の時代には限られた人だけです。
多くの人は、そうではないのです。
この前、「投資」と「消費」の違いを書きましたが、それこそ9倍の効果に満たないものに消費せず、もっと自分に有益となるものだけを手にするように考えてみるのも良いと思います。
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