前回の続きです。
●前回の記事: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002181.html
●「しろえもん」に新しいしつけのトレーナーが現れる
久しぶりに神奈川県愛護動物協会へ行くと、相変わらずのにゃんだぼを見かけました。
気難しい噛み犬も相変わらずです。
愛護協会は20年近く前から、保護した動物の安楽死をやめました。
人になつかない犬、老いた犬は貰い手もつきません。
そういった犬たちは、施設で最後まで面倒を見ることになります。
それは、とても手のかかること。
結果として、新たな犬をなかなか保護することが出来ません。
そんな中、出戻りのしろえもんはまだ若いし、人の事も大好き。
けれど、貰い手がいません。
確かに可愛くて、人懐こいのですが、はしゃいじゃう子でして、更に力も強い。
散歩に連れていくと、人が右へ左へと引っ張られます。
まっすぐ歩きません。
施設の所長の松田さんでも、まっすぐ歩かせる事はなかなかできません。
これでは確かに貰い手がつきません。
ある日、しろえもんのしつけの新しいトレーナーがやってきました。
この人のしつけは、今までとは違う厳しいしつけでした。
トレーナーが用意した首輪は、ゆるいクサリになっており、強く引っ張るとしまります。
犬は痛いとは思わないらしいのですが、引っ張ることで痛みではなくショックを与えることが出来ます。
やらないことで叱られるとき、首その輪を締めてショックを与えるのです。
何度もそうされているうちに、しろえもんは疲れたのか抵抗をしめしました。
何を指示されているのか分からなくて暴れたりする時、しつけが出来ないことに対して叱るのではなく、反抗したことを叱るのがトレーナーの方針です。
これから先、反抗をしないようにしろえもんをしつけていきます。
この厳しいしつけの方法を見ていた飯田監督は、湧き上がるモノを体の中に感じ、トレーナーに話しかけました。
監督
「こういうしつけの仕方を撮影したものを見た人は、中には心を痛める人がいると思う。
今後、しろうえもんに里親がつき、幸せになってもらいたいから心を鬼にしてやっているのは分かります。
けれど、しつけ中のしろえもんを見ていて、なんだか幸せそうじゃないんですよね」
トレーナー
「あの子の甘噛みがだんだん本気になってくると、それこそ大変なことになってしまいます」
首を締め付けられる怖さを知って、確かにしろえもんは言うことを聞くようになってきました。
その指導方法を、他のスタッフも教わって実践しました。
しつけは毎日の散歩の時に行われました。
随分、人の言うことを聞くようになりましたが、相手によって態度を変えているようにも見えます。
鎖を外すと、お座りとかもしません。
元に戻ってしまい、これで遊べると感じて、無性にはしゃぎます
。
この映画のスタッフが近づくと、しろえもんの興奮は高まります。
スタッフの服に噛み付いてくるのです。
おかげで服はボロボロ。
これを見ただけでも、今回のしつけによって、良くなったのか悪くなったのか分からない状態なのです。
クサリ(締め付けられるチェーン)が無いと、言うことを聞かない。
ある時だけ、言うことを聞く。
無くなってしまうと、元のしろえもんか、それ以上にストレスがたまってしまっているしろえもんになっている感じです。
●多摩川の捨て猫の現状
スタッフは捨て猫の現状知りたくて、カメラマンの小西修(こにしおさむ)さんに同行しました。
●小西修の動物ドキュメンタリー/Studio Kabuto -Photo Gallery-
http://www10.ocn.ne.jp/~kabuto/
●小西修の動物ドキュメンタリーBLOG
http://www.top-virtual.com/kabuto/diarypro/diary.cgi
小西さんは18年に渡って多摩川全域を歩き、捨てられた猫や犬達を見続けてきました。
捨てられた猫の多くは、ホームレスの人達が面倒を見ていました。
小西さんは、その一軒一軒を訪ねて回ります。
猫たちに差し入れをして、必要なら薬も与えますし、写真も撮ります。
小西
「野良猫は5年生きられると言いますが、平均すると実際は1年未満です。
小さい時に死ぬのが数としては多いですから。
平等に平均すれば一年未満だと思います」
監督
「なんで、こんなに厳しい状況に置かれてしまうのでしょうか?」
小西
「それは、捨てる人が後を絶たないからです。
そういう事をする人が誰もいなければ、野良猫はいないはずです。
愛情を持って本当に飼っている人は非常に少ない。
自分自身に余裕がないからです」
この日歩いた一キロの程の間に、50匹ほどの猫が存在するそうです。
全長が140キロ近くある多摩川全体では、いったい何匹になるのか小西さんでも検討がつかないそうです。
小西
「原因の100%全てが人間にあるわけです。
それを思うと腹立たしくて寝れなかったり、怒りがこみ上げてきたり、涙が出たり。
人間が一番、地球上で残酷で、もっとも嘘つきで、もっとも見栄っ張りなんだとよく分かります」
一ヶ月後、小西さんの写真展が開催されました。
多摩川の野良猫を撮影したものです。
その中にはついこの前、虐待によって死んだ猫もいました。
小西さんが、どのような虐待で死んだかの説明をしていましたが、あまりにも陰惨なので割愛します。
監督曰く、小西さんの撮影する猫は、まなざしが印象的なんだそうです。
小西
「猫も内面を伝えてくれて、自分の目をじっと見てくれることがある訳ですよ。
じーっと教えてくれるというか。同じような目線で自分もいる訳ですから、ふと気づくと、俺は人間だったんだなあという事がありますよ」
小西さんの奥さんも、多摩川の猫たちの世話を行っています。
奥さんは、捨てられた猫たちのために小屋を作ってあげています。
スタッフが奥さんに同行した日、その小屋に小猫が捨てられていました。
その子猫は風邪を引いていました(目が涙目になっています)。
人が世話をしているから、ここならばいいだろうと安易な考えて捨てに来るのです。
奥さんは「捨てる人がいるから世話をしている」と言います。
ひどい時は、年間70匹も捨てられていた事があるそうです。
奥さんが世話した猫の数は数え切れません。
世話した猫の中には、15年も生きた猫もいるそうです。
そこまで世話した事に対し、奥さんは誇りを持っていました。
一週間後、スタッフは再び奥さんに会いました。
抗生物質と目薬により、風邪を引いていた捨て猫もすっかり良くなっていました。
猫の救済はこの18年の間、一日も休まず続いています。
奥さん
「やれやるほど動物たちが分かるので、ここまでってやめられないんですよ。
今日やったら明日。
明日やったらまた次の日が心配なんですよ」
監督は、この夫妻に不妊去勢について聞いてみました。
奥さん
「人間の冒涜だと思います。
子孫を増やさないようにしているのですから。
けれど、かわいそうな猫を増やさないためという考えもある。
それだって人間の都合。
もし、生まれる直前だったら産ませて育て、里親をさがすようにしています。
けれど、これ以上の苦労をさせないように、母猫には不妊手術をさせます」
2007年9月、強い台風が関東を直撃しました。
多摩川も被害を受けました。
2週間後、小西夫妻に現場を案内してもらいました。
反乱した川によって、沢山の小屋が全て一気に流されていました。
ここで住んでいたホームレスの人達も、猫達も流されて行方不明。
台風は天災ですが、ここで暮らさなければならなくなった人や猫の実態を考えると人災でもあります。
夫妻は猫だけではなく、災害に見舞われたホームレスの人達におにぎりやパンを配給していました。
●犬捨て山
山梨県のとある山間に、数えきれないほどの捨て犬がいます。
以前はマスコミでも取り上げられ「犬捨て山」と呼ばれました。
不動産業をしている地主が犬たちを集めたのですが、本人はろくに犬たちの面倒を見ずほったらかしにして、そしてそのまま死亡。
そのまま放置しておくわけにもいかないので、住み込みで面倒をみている人がいます。
インタビューに応じてくれた小林さんを含め、男性三人が行っています。
餌はカンパのドッグフードに、肉屋からもらった鳥等の内臓を煮こんで混ぜたもの。
ここには150頭を越す犬たちがいます。
ピーク時は400頭もいました。
犬がこれだけ集まったのは、メディアの影響もあるそうです。
それを見て、犬を置いていく人が沢山いたのだとか。
小林さんはそこのプレハブ小屋で、電気ガス水道のない暮らしを3年も続けていました。
以前に比べてカンパも減り、生活は大変厳しい。
小林さんを含めて三人の生活をたった2万円で行っています。
以前は、幾つもの愛護団体がやって来ていましたが、小林さんに言わせれば愛護団体は信用できないそうです。
理由は「継続的なものがないから」。
一時、世間に煽られて大騒ぎするとか、そういう程度の団体ばかり。
そういう団体は、この汚い場所をテレビ等で映すと「みなさん、こういう所に犬たちがいるんですよ。かわいそうに」と言います。
「だから私達が綺麗にするから、その為のカンパをお願いします」と行った後、さっぱり来ないのです。
小林さんは何度もやめようと思ったのですが、「一番オレになついているしなあ。まっ、いいか。頑張るか」と続けてきたそうです。
勿論、さすがに三人だけですべてを行うには限界があります。
それを助けるのが、毎週のように通い続ける学生たちとオーストラリア人のマルコ・ブルーノさん。
●動物愛護支援の会
マルコブルーノ氏が代表の動物愛護支援の会のホームページ。飼主のいない犬や猫達の里親を募集。
http://www.adachi.ne.jp/users/help/
マルコさんがここを訪れたのが11年前。
当時を振り返ると「もう地獄そのものでした。これを見たとき、日本の犬に生まれたくないなあ」と思ったそうです。
マルコ
「一番つらかったのが、どこから手をつければ良いのか分からないこと。
餌を運んだほうがいいのか、犬舎を先に作ったほうがいいのか、問題が山積み。
何をやっても先が見えない。
子犬が生まれてもすぐ死んでしまう。
餌がないし、他の犬に食い殺されてしまう」
行政を動かし、少しずつ状況を改善してきました。
マルコさんと共に世話をするのは、山梨県にある帝京科学大学の動物愛護サークル「SWEET HEART」のメンバーです。
●多頭飼育問題改善活動(帝京科学大学の有志学生によるサイト)
http://www.animalweb.jp/bokuiki/tatou_hp/tatou_top.html
この学生たちの行動を見てマルコさんは「アッパレ」と言っています。
こんなに一生懸命やってくれて嬉しいと。
学生の言葉
「メディアが取り上げると、その時は関心が高まります。
けれど、ここもそうだけれど、すぐにみんなの記憶から無くなっちゃう。
でも、まだそれは続いているのです。
悪い状況の時で忘れてしまうから、非常に印象が悪い。
地域住民の方達にとってもです。
どんどん現状を更新して、知っていて欲しい。
それで犠牲になるのは犬なのだから」
ある日、犬の里親になってくれる人が現れました。
マルコさんは里親に渡す前、犬に健康診断やワクチン接種を受けさせました。
そして必ず自分の手で、里親へ届けます。
マルコ
「飼い主さんと面接をやります。
みんないい事しか言わないじゃないですか。
その人で本当にいいのかは、やはりその人の家にまで行って、言っていることは本当かどうかを見極めます」
マルコさんは、一人で400匹もの里親さがしをやってきました。
日本人は、命を粗末にしすぎていると考えます。
犬だけの問題ではなく、社会問題だと考えています。
●「しろえもん」の新たなるしつけ
神奈川県動物愛護協会に、しろえもんの新たなしつけインストラクター・山本さんがやってきました。
山本さんは体罰を与えず、ご褒美としてエサでしつけをするトレーナーです。
ご褒美はオヤツやドッグフード。
食べ過ぎないよう、毎日の食事の中から使います。
犬にどうやったらエサをもらえるのか考えさせます。
そして、エサを貰ったときの体位を覚えさせます。
山本
「脅して威嚇して覚えさせるのではなく、大人しくすることを自分の頭で学習させてやらないと、力が無い人がハンドルしたら、また一緒。
頑張ったら頑張っただけのお給料を増やしてくれる上司のもとでお仕事をしたいのか、上司の言うことをガタガタ言わないでやれみたいなところで仕事をしたいのかと言うのと一緒なんですね」
続く。
多摩川もそうですし、犬捨て山もそうですが、やはり人間が原因で、それに犬や猫たちが巻き込まれているようです。
幸い、それを放っておけない人達がいます。
けれども大勢の人達に、その活動が知れ渡っていません。
そこはメディアの役割なのに、一時的な過剰なまでの報道の後は、カメラを全くその方向へ向けようとしません。
それでも続けてボランティア活動をする人達がいます。
それを使命として続ける精神というのは、なかなか真似が出来ることではありません。
尊敬します。
人が作った歪んだ社会のシステムを正すのは、やはり人しかいません。
動物愛護というのは、介護問題に比べるとあまり知れ渡っていませんが、そういう事実は知っておく必要があると思います。
それは、安易にペットショップで犬や猫を買い、人間の事情で捨てられるという事を未然に防ぐ「教育」になると思います。
考えの凝り固まった大人には難しいかもしれませんが、せめて小学校・中学校にて、そういう事を知るような授業が出来る事を希望します。
●次回の記事: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002183.html
※※※※※
●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002181.html
●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002182.html
●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002183.html
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