2010年10月10日

映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【3】

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前回の続きです。

●前回の記事: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002182.html

今回で最後です。


●崖っぷち犬騒動

2006年11月、徳島市内の崖で動けなくなった犬・・・通称「崖っぷち犬」が発見されました。
二日に渡る救出劇はテレビで生中継され、多くの人の関心を集めました。


●リンリン (犬) - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%B3_(%E7%8A%AC)

リンリン(2006年春 - )は、2006年11月下旬に、徳島県徳島市加茂名町の眉山山麓の高さ約70メートルの崖にて身動きがとれなくなっていたところを、徳島市消防局及び徳島保健所により救出された、メスの犬である。柴犬に似た雑種犬。


犬は徳島県動物愛護管理センターに保護され、全国から引き取りたいとの問い合わせが100件以上ありました。
二ヶ月後、崖っぷち犬が譲渡会に出されることになりました。
もう一匹、同じ山で保護された姉妹と思われる犬も出ました。
前日から取材をしているテレビクルーもいました。

そんな中、映画スタッフも現地入りして、センター内の成犬の収容施設を取材しました。
収容されている成犬の内訳は、6割が野良犬、2割が飼い主がいた犬です。
崖っぷち犬と、この犬舎にいる犬に違いはありません。
貰い手の希望があるかないかだけ。

徳島県で昨年、約7,700頭が殺処分されています。
そのうち、4000〜5000が子犬。
貰い手はほんの数%。
昨年実績で殺処分7,700頭のうち、助かったのは130頭。
わずか1.8%の譲渡率(貰い手があった率)です。

殺処分に使う機会は小さな鉄の箱です。
ここに炭酸ガスを充満させて、殺処分を行ないます。
ここに犬が入れられ、この箱がトラックのコンテナの中へ移動します。
つまり、トラックの中で殺処分が行われるのです。

こういう仕組みになったのは、行政側の事情があります。
殺処分をすると、愛護センターが立地出来ないのです。
殺処分施設があるのに愛護センターがあったら、住民から反対の声があがってしまうから。
だから移動中に殺処分が行われるのです。
行政としては、苦肉の策。
しかし、殺処分をぼやかすようなやり方には違和感があります。

ここまで裏事情を説明してくれたセンターの方は獣医さんです。
獣医として、いかにして殺処分数を減らしていくかを生きがいにしています。
愛護センター設立当時、殺処分数が1万匹もあったのですが、5年後までに半減させたいという具体的な目標を掲げて取り組んでいます。
崖っぷち犬の取材に来た人達にも、こうした現実は伝えているそうですが、反応は今ひとつのよう。

譲渡会当日、崖っぷち犬目当てに100名以上の報道陣が集まりました。
受付に来ただけで、その人達に質問攻め。
崖っぷち犬の申し込みは合計11名。
予想より大した人数ではありませんでした。

室内では、他の犬猫の譲渡会が行われました。
むしろこちらの方が希望者で賑わっていました。

都会では見られなくなった犬の放し飼いですが、地方ではまだ見受けられるようです。
勝手に散歩させるから、散歩先で子供を作ってしまうという事も珍しいことではないとか。

里親探しに来た小学生の女の子達にインタビューしました。
マンションの近くのすすき畑で捨てられていたのを一ヶ月間、この子達がすすき畑で育てていました。
最初8匹いて、4匹は引きとってもらえました。
今回、残りの子犬達を連れてきたのです。

普通ならばゲーム等に使うお年玉をエサ代に使って、自分たちで育てたことに対して親御さん達は、野良犬云々は置いといて、命について考えられる良い機会だったと考えているようです。

犬達を引きとってくれる人達が現れました。
引き取られる際、子供達は泣きじゃくっていました。

一方、崖っぷち犬は、新しい貰い手と記者会見。
ちなみに姉妹犬には、貰い手はつきませんでした。

譲渡会も終了。
翌朝、映画スタッフはセンターを再び訪れました。
この日、収容期限を迎えた犬達。
例の箱に入れられトラックに積まれました。
スタッフ達は、走るトラックを後ろからついて行きます。
目的地の火葬場に着く頃には、中の犬達はみんな生き絶えています。

午後、子供たちの元を訪ねていきました。
まだ何匹かを世話していました。
取材中、次第にたくさんの子供達が集まってきました。
みんな無邪気ながらも、子犬たちの行末を心配していました。
数日後、全ての子犬に貰い手が見つかったとの連絡がありました。

●海外の愛護活動

2007年夏、監督の前作がロンドンで上映されることがあり、招待を受けました。
イギリスと言えば動物愛護、動物福祉の本場。
この機会に実情を見ることにしました。

イギリスのペットショップでは通常、犬や猫は扱っていません。
飼いたい人はブリーダーから直接購入するか、保護施設から貰うのが一般的です。

保護施設の一つ「Dog Trust(ドッグトラスト)」を訪ねました。
百年以上の歴史があり、国内に17の施設、会員30万人、年間1万4千匹を保護しています。

一頭一頭に性質を記したカードが貼られ、ゆったりとしたスペースが与えられています。
何箇所も用意されたドッグラン。
日本とは全くスケールが違います。

いい加減な飼い主に引き取られるぐらいなら、ここの方が幸せなのではと思ってしまいます。
スタッフの中には、しつけのトレーナーもいます。

ここでも年間に数頭は、安楽死させることがあります。
ドッグトラストによると、イギリスにて2006年に処分された犬の数は7743匹。
この数は日本の15分の1。
犬の総数は、日本の半分。

ロンドンに一週間来たけれど、野良猫を見ません。
ハトや雀、カラスは普通にいるのですが、ロンドンで野良猫は希少動物でした。

そんな猫の保護をする団体「Battersea Dogs & Cats Home(バタシー ドッグズ&キャッツホーム)」。
テレビでも頻繁に取り上げられる、150年もの歴史があるロンドンでも有名なシェルターです。
ここのほとんどの猫が貰われるそうです。
猫の福祉も、日本より随分進んでいます。

しかし、動物たちのために社会を更に変えないといけないと主張している人達もいます。
アニマルライツ(動物の権利、animal rights)を訴える人達です。

「アニマルエイド」は、そんな啓蒙・啓発活動に取り組む団体。
責任者のアンドリューさん。
こうした意識はこちらでは広まっており、イギリスではベジタリアンに変わる人が毎年何万もいると言います。

何かにつけて欧米に習えという風潮には疑問もあります。
しかし動物を利用してきた歴史も、それを見直そうという動きも、私達の先を行っているのは事実です。
動物達が置かれている状況を改善するため、法律制度、人々の意識変革も大切なのかも。

●戦時中の犬達

この映画の依頼主・稲葉さんからお願いがあると言われました。
自分が長年お世話になった獣医さんを映画に登場させて欲しいと言うのです。

当初、監督は気が乗らなかったのですが、その経歴を聞いて一変しました。
一言で言えば、今まで取材して知った事を長年自ら経験してきた方でした。

日本の動物愛護のパイオニア「日本動物愛護協会」。
かつて病院に犬猫のシェルターがありました。
前川先生は長らく、ここの医院長を勤めていました。

前川
「こちらは助け、こちらは抹殺するというような現実に携わっていました。
こっちでは注射して殺し、こっちでは注射をして助けると。
みなさんは動物愛護とは助ける事、それだけだと思っているけれど、そうじゃないんですよね。
人間が囲いこもうとするときは、どうしても負の仕事をしないと、楽しい生活はできない」

前川先生が勤め始めた昭和20年代は、街中に野犬が溢れていました。
日本動物愛護協会でも、年間2千頭以上の犬猫を収容し、大半を処分していました。
そうした中で前川先生は、動物愛護とは、人間とはと考え続けてきたのでした。

前川
「だから根本的には人間はあまりにも強欲で、攻撃的で、自然を食い荒らすものです。
それを抜きにして動物愛護はできないですよ。
非常に矛盾だらけだし、仏教的に言えば、業の世界ですね。
生活が困窮を極めはじめると、動物愛護というのは吹っ飛んじゃうんです。
だから動物を可愛がるような精神になるためには、やっぱり平和であって、裕福じゃないといけない。
そこに問題を持っていかないといけないのです」

この言葉がふに落ちるようになったのは、戦時中の犬について調べだしてからでした。
戦争における犬と言えば軍用犬ですが、彼らは前線で活用されただけではありません。
犬が忠実に任務をこなしたという話は誇張され、児童書や教科書にまで登場。
犬までもが、愛国心に利用されました。

戦局の悪化に伴い、生活が困窮を極めるにつれ、犬の肉まで食用とされたり、ペットとしての犬猫は贅沢品、不要だという声が高まっていきました。

敗戦の前年には、「犬の献納運動」が行われました。
献納の理由が「犬の特別攻撃隊を作るため」というのは全くのまやかし。
実際には、乱暴な狂犬病予防対策でした。
食いぶちを減らすためであり、犬を差し出さなければ非国民呼ばわりされる状態でした。

前川
「まず生きなければいけない。
食べなければいけない。
ある程度お腹が満ちてくると平和な心になって愛護精神も出てくる。
みんな可愛がる余裕も出てくるんですね」


●取材してきた先々のその後

映画の製作が長引いたため、取材時と状況が変わってきたところもあります。

神戸の松田さんは「日本動物福祉協会(CCクロ)」を引退。
その後も若いメンバーの相談にのったり、その他広く活動を続けています。

山梨の多頭飼育現場(通称・犬捨て山)。
150匹以上いた犬も109匹まで減りました。
この山梨で活動してきた後藤さん(取材最初の頃は学生。当時、学生達のリーダー)。
後藤さんは大学院を終え、神奈川県動物愛護協会へ就職しました。

「しろえもん」のまわりでは、その後も紆余曲折がありました。
しかし、本人はいたって元気。
今はまた、新たなトレーナー橋本さんのしつけ指導で、随分と変わってきました。
人の隣について歩いたり、ストップの指示に従ったりと随分と上手になりました。

最初はうろうろしているだけだったのが、ちゃんと止まって、話しを聞く態度が見えました。
大きな変化です。そして何より、スタッフの笑顔が増えました。
それは犬にも伝わります。

千葉県動物愛護センターにも変化がありました。
譲渡対象を子犬・子猫だけではなく、成犬・成猫にまで拡大しました。
ボランティアへの譲渡も始められ、犬の譲渡数は2倍、猫にいたっては10倍以上に増え、処分数は大幅に減少しました。

最後、撮影スタッフは東北へ向かいました。
岩手県一関市。
ここに、樹木葬という墓地があります。
墓石を立てるのではなく、樹木を植えて埋葬するのです。
墓地を作った住職に案内されました。
「散骨とは違い、第二のふるさととして地域に愛してもらいたい」

映画の依頼主・稲葉恵子さんがここに眠っています。
最初の依頼が監督の頭の中から離れません。

稲葉
「私が生きているうちに映画を見せてくださればいいです(笑)」

監督は、間に合わなかったことを悔やんでいます。
稲葉さんの墓の向かいには、ペットを埋葬できるように区画が分けられています。
彼女らしい場所です。

「人間より動物のほうがマシ」・・・そんな稲葉さんが言っていた言葉を監督は今は理解できるようになりました。

監督は、とまどい、打ちひしがれる事の多い映画制作だったと感じました。
しかしだからこそ、現実と向き合い続ける人々の姿に惹かれたそうです。

環境省は2009年度から9年間で犬猫の殺処分数の半減を目標に、各自治体の収容施設・譲渡施設の改善を目指しています。
この目標が早期に達成されることを祈っているとの事。
私達人間には、その責任があるのですから。

(おしまい)

犬・猫を取り巻く環境を実際に知って、どう感じられたでしょうか?
ペットショップやメディアで取り上げられる華々しい・明るく楽しいものだけでは無かったのです。

こういう実態を知った上で、動物と人間との共存について考えてみるのは良い事だと思います。
別に愛護活動をしなくても構いません。
安易にペットを購入して可愛がり、飽きたり、家庭の事情で捨ててしまうという事はいけない事だと理解できればいい。
それだって間接的に、愛護活動をしている人達の負担を減らせるのですからね。

私自身は今後、機会を見て、新潟県内で活動をしている人達を取材してみようと思います。
それを発表出来る場は、とりあえず今はこのサイトだけですが、やらないよりやった方がいいでしょう。
それによって、一匹でも不幸な動物を減らすことができるなら。


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●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002181.html

●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002182.html

●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002183.html

Posted by kanzaki at 2010年10月10日 09:47