2010年10月08日

映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【1】

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ここで一つ「動物愛護」について考えてみたいと思います。
ペット産業が一大産業になっている現在ですが、実はその裏で、それら動物たちが辛い状況に追い込まれているのです。

先日、映画「犬と猫と人間と」というドキュメンタリー映画を見ました。

●映画「犬と猫と人間と」 オフィシャルサイト
http://www.inunekoningen.com/index.html

辛い現実を克明に描いた作品でした。
まずはこの映画の流れをご紹介し、その上で私なりの考えを書いてみたいと思います。


●この映画の制作のきっかけ

この映画制作は思いがけないところから始まりました。
きっかけは、「猫おばあちゃん(稲葉恵子さん)」でした。

稲葉さんは、若い頃から捨て猫を何匹も面倒を見てきたそうです。
でも、もう自分も歳で限界を感じたので、映画制作を思いついたのです。

猫おぱあちゃんによると、避妊等で捨て猫が少なくなってきているけれど、まだまだ処分場で処理される数は沢山いるのだとか。
そういう実態を見て、「かわいそうだなあ。大切に育てよう」と思ってくれるには、映画が一番なのではと思ったそうです。
そして、その映画を制作してくれる人を探していました。

飯田監督自身に断る理由もありません。
けれど今まで、特に愛護に特別関心があったわけでも無いので、何を撮ればいいのか分かりませんでした。

猫おばあちゃんが、映画制作の為に監督を指定した理由は、「勘」だそうです。
そして、自分が生きているうちに、作った映画を見せてもらいたいとの事。

おばあちゃんの愛護の理由は、「人間も好きだけれども・・・・・・人間よりマシみたい。動物の方が(笑)」。

まだ監督はこの時点では、おばあちゃんの心を理解出来ていませんでした。

●日本のペット事情と意識

監督は何を撮ればいいのか模索しました。
まずは、今の社会で犬と猫はどんな存在なのかを街の人にインタピューしてみました。

・かけがえのない家族。家族の一員

このような考えが圧倒的でした。
そんな考えがベースにあるからでしょうか、子供服な犬に着せる服が売られていますし、販売されている犬用のおやつはどこかのスイーツ店のような感じです。
また、ペットのお誕生日会を開けるお店なんかもあります。

一方、老人ホームでは、コンパニオンアニマル活動とういうものが行われています。
動物が我々に癒しを与えてくれる効果を期待してのものです。
「ドッグパーク」という場所では、お金を払って犬たちと触れ合ったり、散歩したりできます。
動物との触れ合いはビジネスにもなるのですね。

好きがこうじてブリーダーをしている人もいます。
その結果、現在は犬は1250万頭、猫が1300万頭になっています。
ペット産業は2兆円規模にまで膨れ上がりました。

こんな日本ではありますが、ペットにとっては天国とはいかないようでして・・・。
ペットを売るために、出張販売や深夜販売が当たり前になっています。
また、公園等への動物の不法投棄も多いそうです。

日本の自治体で処分される犬・猫の数は約35万匹。
一日約1,000匹。
処分と言葉を濁していますが、「処分」とはつまり「殺す」ということです。

どうしてこんな風になったのか?
どうしたら防げるのか?
監督は、これを映画のテーマにしました。

●犬猫の収容施設の実態

最初に行政の犬猫の収容施設を取材することにしました。
しかし、どこへ問い合わせしても取材拒否が続きます。
施設側も本当は実態を知ってもらいたいのですが、映像として映し出されるとそのインパクト故に非難が巻き起こるが明白だからです。

ようやく取材を受け入れてくれる施設が出てきました。
そこは、千葉県動物愛護センター。
犬を収容する犬舎は、野良犬・迷子犬が捕獲されると、日にちごとに収容されます。
5日の間に飼い主が引取りに来ないと処分(殺す)されます。
また、飼い主が持ち込んだ場合は、翌日には処分(殺す)されます。
処分方法は炭酸ガスによる「窒息死」。

これらの殺される直前の犬たちを引き取ることは可能なのでしょうか?
生後二ヶ月の子犬・子猫は可能。
親猫・親犬は病気予防等の対応がされていないリスク等を考慮し、不可能。

譲渡率は犬で3.7%、猫は1%。
つまり殆どが処分されるのです。

処分される猫の9割が子猫。
猫は多すぎるので、翌日には処分されます。

この処分場へ猫を持ち込む人もいます。
持ち込んだ猫は総じて、好きな人達が気軽に育てている中で生まれた猫達でした。
貰い手がいない、近所からの苦情等、どれも人間の都合ばかりです。
上記の通り、譲渡等で行政が助けられる命は僅かです。

●民間団体の愛護への取り組み

民間団体へ目を向けてみましょう。
財団法人・神奈川県愛護動物協会へ赴きました。
50年の歴史があります。
猫が50匹、犬が15匹程度います。
スタッフはそれぞれの犬・猫の性格をちゃんと理解しています。

人に対する不信感、恐怖感から、この映画の撮影班が手を出そうとすると、吠えたり噛み付こうとする犬もいました。
スタッフでも性格を治すのは難しい事なのです。

犬・猫をこの施設に持ち込む人達の理由は、離婚、家が競売にかけられた等です。
やはり人間側の都合です。

ある日、施設の皆さんは、車にたくさんの猫を入れて移動し、ペット用品店にて、里親探しを実施しました。
簡単に貰い手が見つかるわけではなく、日によっては0匹の時もあります。

里親が見つかって引きとってもらえたのに、再び戻ってきた犬がいます。
名前は「しろえもん」(この犬、何度も劇中に登場します。公式サイトの登場人物を参照してください)。
理由は、嬉しくて行う甘噛みがきついし、散歩に出るととても強い力で引っ張るからでして、とても飼えないと戻されたのでした。

この施設に勝手に出入りする野良猫「にゃんだぼ」。
ふらりとやってきては、あちこちの犬猫にちょっかいを出します。

「にゃんだぼ」にちょっかいを出されていた「デリー」。
コッカースパニエルなのですが、誰にも自分の毛の手入れをさせません。
夏が近づくと麻酔をかけられ、バリカンで全ての毛をスタッフによって刈られます。

シェットランド・シープドッグ の「サンデー」もやはり誰も触れることが出来ません。
という訳で、こちらもバリカンで毛を刈られます。

愛護協会に子猫たちがひっきりなしに連れてこられます。
施設の前には、目もまだ開いていないような子猫が捨てられる事もあります。
子猫は人間の赤ちゃんと同じように手がかかります。
日に何度もミルクを与え、オシッコを出させ、具合が悪ければ薬を与えます。
夜も世話をしなければいけないので、毎晩スタッフが家へ連れていきます。

不幸な猫を減らそうと愛護協会が力を入れているのが野良猫の不妊去勢。
依頼を受ければ捕獲器を持って駆けつけます。
捕獲器は金網で作られたもので、餌を中に吊るしてあり、中に猫が入ると蓋が閉じるもの。
単純な仕組みなのですが、これがよく捕まります。

そうやって捕獲した猫を不妊去勢して元の場所へ返します。
愛護協会は毎年、1000匹以上の野良猫に不妊去勢の手術を行っています。

雄は睾丸を取るだけの簡単な手術なのですが、雌は子宮ごと卵巣を取り除きます。

辛いのは、お腹に子どもがいる時です。
監督は、この仕事に携わる人達の気持ちを知りたくて、摘出した胎児の入った子宮を触らせてもらいました。
まだ温かく、しかし半分冷たくなっていました。
監督は触った瞬間、これは命そのものだと理解しました。

飯田監督
「はじめて見たときはちょっと気持ち悪いと思いました。
でも、こうやって触ると、そういうもんじゃないですね」

触れると身動きするものもいました。
捕獲器の中で生まれていることもあるとか。
だから今回摘出した胎児は、もし明日に捕獲器で捕まっていたら、生まれていたかもしれません。
もし生まれていた場合、愛護協会の人達は、寝る時間も惜しんで全力で助けて育てる事になります。

●綺麗事ばかり言ってはいられない現実

行政と民間が協力して活動している地域もあります。
例えば、神戸市動物管理センター。
朝は、職員によって譲渡対象となる犬の世話を行ないます。
そして昼には、ボランティアグループ「日本動物福祉協会(CCクロ)」が来て、世話を引き継ぎます。

●CCクロ - 神戸市動物管理センター譲渡事業支援ボランティアグループ(社)日本動物福祉協会CCクロ
http://cckuro.com/

譲渡対象として世話をしているのは、子犬、成犬等を合わせて20〜30匹。
施設の裏には貯水池を利用したドッグランもあります。
散歩の合間に、犬のしつけも行われています。
しつけをしている方が貰われやすいし、貰われた家で問題行動を起こして戻されたりしない為です。

ここは行政施設。
入ってくる動物全てを譲渡出来るわけではありません。
犬は犬舎に収容され、収容期間中に職員によって譲渡対象となるか処分に回されるかが決定されます。

犬にとっては正に運命の分かれ道。
譲渡対象とならなければ、施設にある処分機で最後を迎えます。
また、猫は譲渡を行なっていないため、基本的に全て処分となります。

ボランティア団体CCクロを引っ張ってきた松田早苗さん。
松田さんは入ってきた動物を見るため、収容犬舎を頻繁に訪れます。
譲渡するか処分をするかを決めるのは職員が行ないますが、松田さんの意見も大きく反映されています。
長期間の調教をすれば譲渡対象になれるかもしれませんが、施設の性格上それは難しいのです。
年間500匹のうち、助けられる命は120匹ぐらい。

安全な犬を社会へ出すのが使命だと、松田さん達は感じています。
ここで貰った動物が危険だと分かったら、施設の評判が落ちてしまいます。
一匹のために他の何百匹を犠牲にするわけにはいきません。
救える命に限りがある以上、そこに優先順位をつけなければならない。
決める人にとっても辛いことです。

松田さんはこの道40年のベテラン。
かつては自宅で何十匹も世話していました。
行政との連携は、阪神淡路大震災の救援が一つのきっかけだったそうです。
しかし、復興とともに協力関係も途絶えました。
そこから粘り強く働きかけて今に至りました。

松田さんはとにかくよく動きます、
その姿勢は若いメンバーにも引き継がれています。

実際に処分をする職員にも話しを聞きました。

「処分の時はやっぱり、犬も分かるんでしょうねえ。
泣いたりとか嫌がったりとか。
そういう時が一番辛いですよね」

「犬、猫は大好きです。
神戸市に採用されたとき、動物園へ行きたいと思っていたので、形は違いますが、動物たちに接していけて良かったです。
(犬、猫を処分できるのは)逆に好きだからこそだと思います」

「好きだと扱いが全然違います。嫌いな人だと、モノ扱いしてしまう」

処分された動物たちの遺体は、施設内の焼却炉で火葬されます。
いくら譲渡が進んでいても、救えるのはまだまだ一部。
多くはこうして灰となります。

「きつい言い方をすれば、いい加減な飼い主さん達の尻拭いをしている訳ですから、それで避難されるのは非常に不条理でもあるんですよね」

これは、センターに働いている人誰もが心に秘めていること。
行政と民間が連携しても、すぐに解決出来るわけではありません。


松田さん
「優先順位を付けて助けられるものから助けて順番に拡大していかないとね。
だから手の届く最高峰が理想。
それを超えたら空想。
多くの愛護団体は空想を掲げている。
処分をゼロにしようとかね。
ゼロになるわけがない。
殺処分ゼロはありえないと思うの。
でも少なくすることはできる」


(続く)


生き物の命を断つ。
表社会では殆ど取り上げられない現実です。
動物たちの殺処分というのは、人間が人間社会のルールの中で、いわば勝手に決めたお約束事。
決して、地球上の自然摂理ではありません。
その殺処分の理由も、無責任な飼い主によるものが殆ど。

ペットは可愛い。
飼っていない私でも、それは理解できます。
しかし、それらを人間の都合で捨ててしまう考えは、全く理解できません。

殺処分を実施する人達に文句を言うのはお門違いです。
身勝手な人達の尻拭いをしているのですから。
「殺すなんて可哀想」なんていう、単純な考えは現実的ではありません。
非難の方向は本来、ペットを捨てた人達へ向けられるべきなのです。

「介護問題」の厳しい実態をメディアはオブラートに包んで、あまり伝えていません。
それと同じく、愛護問題についても伝えていません。

厳しい実態が広く認識されない限り、安易にペットショップで玩具のように購入し、飽きたり・身勝手な都合で捨ててしまう数は減らないと思います。

動物の可愛らしい部分を取り上げた映画は幾らでもありますが、ある意味「負の面」を背負った今回のような映画こそ、広く一般の人達に見てもらいたいと思います。


●次回の記事: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002182.html

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●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002181.html

●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002182.html

●神崎のナナメ読み: 映画「犬と猫と人間と」を通して「動物愛護」について考えてみる【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002183.html

Posted by kanzaki at 2010年10月08日 22:19