2021年01月01日

映画『私をくいとめて』を観た感想〜のん(能年玲奈さん)以外で、「怒」の感情で評価される若手女優さんを私は知りません。共感できる「怒」の演技に注目してください

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2020年大晦日、映画館で観ました。
30代の独身女性が主人公。
「おひとりさま生活」を満喫しています。
そんな彼女が、年下の男性を好きになってしまうお話し。


●映画『私をくいとめて』公式サイト



映画『私をくいとめて』本予告


コミカルだけれど、漫画チックではありません。
「きっと現実にもこういう子いるよね」という自然体な内容でした。
心の叫びはあっても、内容としては重くない。


ストーリーも各エピソードごとに、ゆるく起承転結をつけて観やすいです。
上映時間が長いから、観る前は心配だったけれど、観始めたらあっという間でした。


上映時間133分の殆どをのんさんの独り芝居で描いているという感じです。
なかなか彼女の出演作品を観る機会は少ないです。
その分、この作品でがっつり堪能できます。


※※※


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前半は、おひとり様生活を満喫する主人公の日常生活を描いています。


「孤独のグルメ」よろしく一人焼肉など外食をしたり、食品サンプル製作の体験教室へ一人で参加したり。
まるで深夜ドラマの「孤独のグルメ」や「名建築で昼食を」みたいな雰囲気です。


脳内にいる模範解答な話し方をする自分「A(声・中村倫也さん)」との掛け合いが面白いです。
「のん」がレポーター、ナレーションが「A」で、深夜のロケ番組を観ている感じ。


この「A」がいるおかげで、私のような男性でも観やすい仕上がりになっているのかなと。
中村倫也さんの声は、聴いていて落ち着きます。
そんな脳内の声と、ナチュラルに会話する主人公がかわいいです。


がっつりの恋愛要素は、自分が思ったよりは配分が少ないです。
主人公の日常生活に起きた出来事の一部。
彼女の心の起伏を描くのに必要だったという感じです。
彼氏ができたからと言って、大人として一歩前へ進んだかと言えば、そこまでではありません。
成長というより、「ひとつ悩みが増えた・・・けれど、頑張ろう」という感じ。


登場人物は何人も出てきますが、あくまで主人公の感情を描くためのリトマス試験紙です。
彼氏でさえも。


※※※


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私の好きな作品の傾向は3つあります。


「悪い人が出てこない」
「凄惨な出来事が起きない」
「観ている自分と地続きな世界観」


これだけで、私は気に入ってしまいます。
この映画は、まさにそれでした。


しかも主人公をはじめ皆、ちゃんと社会人として自立できている人なんですよね。


主人公の会社に、王子様系の濃いキャラの男性社員がいます。
マンガチックなキャラですが、彼ですら社会人として一線を超えない思考をしています。


※※※


のんさん演じる主人公「みつ子」は、30代の独身女性。
そんな主人公の日常が描かれます。
休みの日に一人で出かけたり、一人で外食したり、自宅でのんびり過ごしたり。


会社では、存在感を前面に出す方じゃないのですが、この会社にいるのが当たり前なぐらい馴染んでいる感じ。
ちゃんと社会人としての振るまいや言動の能年さんが、実に新鮮だったりします。
破天荒キャラじゃないのです。
こんな女性がいたら男性社員は、「口説こうとはせず、会社の給湯室にて笑顔で日常会話をしたい」と思わせる、実にリアルな雰囲気だったりします。


過去の作品だと、登場人物の中では一番歳下で、「守られている」という印象(「あまちゃん」とか)。
暴走しても、誰か大人が止めてくれていました。
ところがこの作品では、きちんと自立しているのですよね。
歳下の彼氏にタメ口で話す雰囲気とか、実に30代の女性っぽいのです。


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自立して社会人としてキチンとやっているということは当然、「我慢している」「感情を抑えている」と言う部分がある訳です。


主人公は現実にいそうなキャラですから、喜怒哀楽のすべてを持っています。
意外と邦画で、主人公の喜怒哀楽のすべてを出し切っている作品って少ないかも。


そう思えるぐらい、のんさんが演じる主人公を上映時間すべてを使って描いています。
だから逆に言えば、他の登場人物はそこまで喜怒哀楽は出さず、社会人としての常識的な感情しか出していません。


のんさんは「喜」「怒」「哀」「楽」のうち、「怒」の演技がいいのですよ。
若手女優で演技のうまい人はたくさんいるでしょうが、大抵は「泣きの演技」で評価されます。
のんさん以外で、「怒」の感情で評価される若手女優さんを私は知りません。


普通、「怒」の感情は、観ている人に不快感を与えます。
私のようなおっさんの場合、若い女の子の「怒」は恐怖でしかありません。
ナイフのような鋭さがあり、対峙したらこちらが怪我をしてしまいそうだからです。


ところが、のんさんの「怒」はそうならないのですよ。
不思議と「共感」してしまいます。
きっと、この「怒」の感情は、「悪態」ではなく「助けを求める叫び」のように聞こえるからなのかも。
だからその助けに手を差し伸べたくなるのです。


この映画で、のんさんは「怒」をいくつかの場面で出しています。
そしてその「怒」は、「自分で自分に対する酷評・見下し・悔しさ」もセットになっています。
そういう部分があるから、観ていても「怒」が不愉快にならないんじゃないかと。


単純に、表情や言葉で喜怒哀楽を表現するだけでなく、逆に表情を出せない複雑な感情も描いていました。
結婚して海外へ行ってしまった親友から、遊びに来ないかと誘われたエピソード。
行ってみたら、親友はお腹が大きくなっており妊娠していました。
事前に知らされていなかった事実を前に、会った瞬間に「おめでとう」とか素直に言えない部分が、妙にリアルでした。


※※※


2020年の大晦日、最後に良い映画を観ることができました。
2021年も、こんな素敵な映画を観たいものです。



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Posted by kanzaki at 2021年01月01日 15:56