2022年03月06日

映画『あしやのきゅうしょく』の感想〜兵庫県芦屋市の自慢のひとつ「学校給食」の取り組みを描いた作品

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●映画『あしやのきゅうしょく』公式サイト
http://ashiyanokyushoku.com/

主演:松田るか
監督:白羽弥仁(兵庫県芦屋市の出身)


芦屋市の市制施行80周年記念映画。
芦屋の小学校に勤務する新米栄養士を通して描かれるヒューマンドラマ。


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【芦屋市の学校給食は有名】


兵庫県の南東部に位置する芦屋市。
芦屋市の自慢のひとつが「学校給食」です。


芦屋市の給食は、本で知っていました。


●芦屋の給食 オシャレな街のおいしい献立_Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4778203968/


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以下、この本で紹介されている内容を踏まえて書かさせていただきます。


芦屋市の学校給食は「豊かな食体験は、子供たちの味覚と心を育む教育である」をモットーに、徹底した手作りで行っています。


他の市町村と変わらぬ、一食分、小学校250円、中学校290円という限られた給食費の中で、栄養士がやり繰りしながら献立を考え、調理師たちが愛情をこめて調理しています。
その取り組みは、全国でも有名です。
この限られた予算で苦労する姿も、映画内で描かれています。


予算が限られる中、地元の業者(劇中では、豆腐屋、精肉店が登場)も協力し、子供たちの笑顔のために頑張っています。
この努力は劇中、「阪神・淡路大震災」にて、避難した人達に届けられた温かい食事のエピソードも踏まえて紹介しています。
震災時のこのシーン、泣けます。
他の観客も泣いていました。


芦屋市は「自校式給食」といって、各学校に給食室を設け、毎日調理を行って子供たちに給食を提供する給食システムを採用しています。


劇中、凄いなあと思ったのは、全員一律の給食内容ではないことです。
食べ物アレルギーの子どもには、別途それに対応しています。


例えば劇中ですと、人気メニューのオムライスが食べられない卵アレルギーの子どもには、なんと湯葉を使った代用食を提供。


イスラム教の家の子どもは「ハラルフード」と言って、イスラム教の教えに沿って食べられるものが限られています。
劇中、その子供は毎日、家からお弁当を持参していました。
しかし、みんなと同じものが食べられないことから、辛くて教室を飛び出してしまいます。
この生徒の為に、イスラム教の子どもでも食べられるメニュー「豆腐のキーマカレー」を作ります。
こういう事を通じ、子供たちに日本以外の宗教や文化を学ぶ機会を作っています。


実際、芦屋市の給食は、子供たちが授業で習った世界各国のメニューや、本の中に出てくる料理など、好奇心や探求心を育てるために提供しています。
劇中、上記のイスラム教の子ども以外にも、普通に外国の子が教室にいて、昔より多様な雰囲気なんだなあと思いました(外国の子は箸が使えないのでナイフとフォークで食べてました)。


芦屋市は、給食開始当初より「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、つくりたてを味わってもらえる」自校式給食に加え、各校に1名専属の栄養士を置き、各校オリジナルの独立メニューを展開しています。
本作品の栄養士である主人公も、創意工夫をこらしていましたよ。
そういう姿は、映画作品としても描きやすいですね。


自校式給食を取り入れている市町村は多くありますが、各校オリジナルというのは珍しいです。
しかも、数人だけに提供するのではありません。
今回の映画の舞台になる小学校だと、1回に700食も作るのですから凄いですね。


各校の栄養士は給食時間になると教室を回り、子供たちから率直な意見を聞き、次からの給食に生かします。
本作品でも、一緒に食事をしたり、感想を聞いていました。
学校の先生のように、主人公である栄養士も「先生」と呼ばれて、子供たちと接点があります。


「自校式給食」にこだわる芦屋市は、おかずだけではなく、ご飯も炊きたてを提供しています。
炊飯は民間に委託するところも多いのに凄いですね。


劇中、そんなご飯を使った「オムライス」を作るシーンは圧巻でした。
ケチャップライスを作る際、大きな窯の中で、大量の具材と、大量のご飯を巨大なシャモジでかき混ぜます。
このシャモジ、ボートが漕げるんじゃないかと思うほど大きいです。
卵焼きは、なんと一つ一つフライパンで焼いていきます。
最終的に、完成したオムライスをアルミホイルで一つ一つ包む丁寧さ。
街の料理店とは違ったダイナミックさと繊細さを兼ね備えた調理法は見応えがありました。


面白い取り組みだなあと思ったのが、「Myきゅうしょく」というイベント。
これも、劇中のストーリーで生かされていました。
6年生が食育の成果として、沢山の給食メニューから好きなメニューを選んで、献立を考えます。
単に好きなモノを選ぶのではなく、カロリーやら栄養価などいろんな事を考慮して選びます。
そして決め方が凄い。
ひとり一台のタブレット端末を使い、表示された料理から選択します。
今どきですねえ。
最終的に決まったMyきゅうしょくは、ビュッフェスタイルで提供されます。
食事が終わったら、作ってくれた調理師さんたちへ、生徒からお礼の言葉と手作りのメダルがプレゼントされ、微笑ましいシーンでした。


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【関西以外の人も観て欲しい】


芦屋市の給食への取り組みが、上手に脚本へ生かされていました。
最初、登場人物が多いから心配していたのですが、見事にまとめてました。
お仕事映画としても、ご当地映画としても完璧。
全世代、誰が見ても穏やかな笑顔になれる作品です。


ご当地映画って、大抵は観光名所とか地元グルメをストーリーに混ぜるだけですが、今回の映画の場合は、芦屋市の強みである「学校給食」に焦点をあてていたのが大正解でした。
だから他県の人でも、珍しいお仕事映画として楽しめます。


この映画でも取り上げられている言葉・・・「食べることは生きること」
子供たちは給食から豊かに生きるヒントをたくさん学ぶことができています。


地元の素材が給食に使われており、子供たちを町全体で育てているのが良く分かりました。
観ていて、とても良い町だと思いましたよ。


誰も悪い人が出てきません。
みんな素敵な人ばかり。
主演の松田るかさんの演技も良かったですよ。
地域の人たちに協力してもらいながら、子供たちのために懸命に頑張る姿が素敵でした。
他の役者さん達も、みんな温かい演技だったなあ。
やはり、子供を相手にしていると、みんな目が優しい表情になるんですね。


感心したのが、「平日の昼間の日常感」が画面から感じられたことです。
本当に我々が普段、自分の目で見る感じの自然さです。
あの光の加減、カメラをやっている人が見ると驚くと思います。
露出補正、色温度など、静止画でも大変なのに動画でやれるなんて凄い。
生きる人々の息遣いが感じられました。
ユーチューブ動画だと分かりにくいかもしれませんが、劇場で鑑賞すると、なるほどと思ってもらえると思います。


86分という短い作品なのですが、きちんと1年間の季節を通し、まるで絵本の1ページ1ページを丁寧にめくるかのように描いていました。


こんなに素敵な作品なのに、上映されている場所が限られているのが残念です。
関西の作品ですが、これを新潟市の「イオンシネマ新潟西」が上映してくれたのは嬉しかったです。
この映画館、同じ市内のイオンシネマとは異なり独自展開な作品チョイス。
そういえば、「この世界の片隅に」も新潟市内ではここだけロング上映していました。


●映画「この世界の片隅に」を観た感想〜本当はこの世の中、一着の綺麗に仕立てた服より、いろんな柄のツギハギでつながったもののほうが綺麗で大切なんだと感じることができました
http://kanzaki.sub.jp/archives/003737.html


●映画『この世界の片隅に』の監督・片渕須直さんが、新潟県に来られました〜イオンシネマ新潟西で現在もロングラン上映中
http://kanzaki.sub.jp/archives/003828.html

Posted by kanzaki at 2022年03月06日 20:32