2010年02月09日

NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【5・"生涯未婚"の急増】

前回の続きです。

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【4・会社とのつながりを失った人々】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002018.html


ここは名古屋市の中心部にあるNPOの合同墓地。
普通の墓より一段高い場所に、巨大な石で作った箱型の墓が二つあります。
それには扉が付いており、中を開けると、沢山の骨壷が納められていました。

この墓を生前に予約している人が既に一千人。
今も増え続けています。
その中で最近目立ち始めたのが、独身のまま一生を過ごす「生涯未婚」と呼ばれる人達です。


●"生涯未婚"の急増/無縁社会


NPOの合同墓地を生前契約している若山鉢子さん(79歳)。
若山さんはこれまで結婚せず、一人で生きてきました。

若山さんは40歳の頃、働いて貯めたお金でマンションを買いました。
以来、一人暮らしです。

父親を早くに亡くした若山さんは、看護師として家族を支えて働き続けました。
母親の介護と仕事におわれ、結婚をする余裕はありませんでした。


若山さん(高齢ではありますが、しっかり覇気のある賢い感じの声です)
「そりゃあ女だから、結婚して子供を産んでる幸せな人を見てると、ああ、私もという気持ちになります。なった時代もあります。
寂しくないと言ったら嘘になりますし、どちらかというと男勝りで我慢強い方だったから・・・・・・(けれど)最近は涙が先にでてきちゃいますね。いろいろと考えると・・・」

若山さんは取材班に、二つのぬいぐるみを見せてくれました。
「棺桶の中に入れてもらおうかな」と言ったぬいぐるみは、小さな豚と犬。
看護師時代に患者からもらったものです。
汚れたりしないように、ビニール袋にいれてあります。
一年に一回、袋を取り替えて大切にしてきました。

若山さんは、名古屋の平和公園墓地へ行きました。
荒波の音が聞こえる墓地。

墓地にある普通の墓を見て、「こういう一人ずつの墓は嫌。寂しいから」と言いました。
冒頭に書きましたNPOの合同墓地の前にやってきました。
若山さんが生前契約しているお墓です。
既に400人あまりの遺骨が納められています。

若山さんは、風で傾いてしまっている花を整え、お墓に手を合わせました。

若山さん
「こうして孤独に生きてきたから、やっぱり沢山の人と出会えると言うのが、私はいいなあと思うんですよね。
そして向こうに行ったら同じ職業をやりたいなあと思っているから。
あの世で(笑)」

若山さんの自宅に戻り、冷凍庫の中を見せてもらったところ、取材班は驚きの声をあげました。
食材がびっしりと入っていたからです。
三年前、がんの手術を受けた時、外出ができなかったそうです。
それ以来、いざという時に買いに行けない場合に備え、三ヶ月分の食料を蓄えているそうです。

若山さん
「心配なのはここにいて死んでても、骨だけになっても、電話が幾らかかってきても、自分には分からないこと・・・・・・」


"生涯未婚"・・・・・・男性は既に女性を上回るペースで増えています。
その多くは、非正規雇用で安定した収入を得られない人達です。

この日、大家の依頼で特殊清掃業者がアパートの一室に入っていました。

その部屋で亡くなっていたのは、舘 進(だて すすむ)さん(享年57)。
三十代で職を失い、その後は派遣会社を転々としていました。
収入が安定せず、結婚することはありませんでした。

特殊清掃業者の人が部屋のあちこちを見て気づいたのは、とてもこまめな生活をしていた人だということです。
室内にきちんと洗濯物を干していたり、炊いたご飯を小分けにしてラップで包んで冷凍したりと、まめな生活です。

密室のアパートで死後一ヶ月もの間、発見されなかった舘さん。
部屋にある留守番電話にメッセージが残されていました。
留守録を再生してみました。


「姉ちゃんだけど、おはよう。また後で電話する」

「進。姉ちゃんだけど病院に入院しているのかなあ。
もし病院に入っているんだったら、知らないで今日、とうきび送ったんだ。
明日・・・あさって? あさって着くんだけれど・・・まあ、いなかったら宅配便で送り返してくるからいいと思うんだけど・・・まあ、それだけ」

「進。まだいないの?
荷物(とうきび)送ったんだけれど、受け取れてないから、こっちに返してもらうようにするからね」


姉は弟の死を知らず、電話をかけ続けていたのです。
姉は遠く離れた北海道にいることがわかりました。
取材班は、姉の百合子さん(65歳)に会うことになりました。

百合子さんは年々、足が弱くなり、遠出するとは出来ません。
テレビの上にある弟の写真の横に、果物を供えました。
そして「生きている人の気休めみたいなもんだよね」とつぶやきます。

離れて暮らす姉と弟。
十年近く、行き来はありませんでした。

弟からの最後の電話についてたずねてみました。

百合子さん
「いやあ、姉ちゃんの声を聞きたかったんだと電話が来たことがあるの。
うん。日記を見たけれど、そのことについて書いてないのよ。
モノを送ったことは書いてあるんだけれど、ただそれが、いつだったかなあと思ったけれどねえ・・・思い出せないの。
ただ、いっぺんだけ来たのが、さいならという最後の言葉なのかなって・・・そう思ったの」

百合子さんは、声を詰まらせて涙が出てきました。
孤独の中、ひとり亡くなっていた舘さん。
自治体によって火葬されていました。

家族を作らずひとりで生活する人が急増する時代。
20年後の2030年には、生涯未婚の数は、女性は4人に一人、男性は3人に一人だと推計されています。

無縁社会をどうすればくい止められのか?
取材班は、その手がかりになる男性がいた事を知りました。

(続く)


今晩9時のNHKニュース内でも、無縁社会について特集を組んでいました。
上記に書いたような共同墓地に入ることについて、生前契約を結んだ人達についてでした。

共同墓地に入る予定の人達は、死んでから出会うわけではありません。
全くの他人だった人達は、同じ墓に入るんだという一種の絆により、生きている間にも交流があるのです。
例えば、一緒に歌うことを楽しんだりと連帯感を持っています。

人や社会と距離を置いた生活をしていた人達が、再び連帯感を感じられるきっかけとして共同墓地が存在しています。
死ぬためではなく、生きるためというのがいいですよね。

いよいよ次回で最後です。
書き終えたとき、私はどのような境地に至っているのか、とても楽しみであり、不安でもあります。


*NHKスペシャル無縁社会(全6回)

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【1・行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002015.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【2・身元不明の死】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002016.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【3・薄れる家族とのつながり】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002017.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【4・会社とのつながりを失った人々】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002018.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【5・"生涯未婚"の急増】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002019.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【6・希望の光】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002020.html

Posted by kanzaki at 2010年02月09日 23:41