2010年10月04日

その土地ならではの新しい料理の作り方(温泉地の名物料理、B級グルメ作成)【2】

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※8/22開催「みなと・しもまち・川祭り・2010」のワンシーン。実はこのシーン、左側の見切れている場所で、新潟日報の人が這いつくばって子供たちを撮影しています。

前回の続きです。

●前回の記事: その土地ならではの新しい料理の作り方(温泉地の名物料理、B級グルメ作成)【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002177.html

前回は新しい料理を作るまでの流れをご紹介しました。
事件は現場で起きていますが、新しい料理は会議室で生まれる事がわかりました。

今回は、料理開発の事例を一つご紹介します。
新潟県の阿賀町「狐の嫁入り稲荷(いなり)」です。

なんでこれをご紹介するかと言いますと、今年の5月、実際に「狐の嫁入り行列」という祭りを見てきたからです。


●神崎のナナメ読み: 新潟県津川地区の祭り「狐の嫁入り行列」【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002079.html

●神崎のナナメ読み: 新潟県津川地区の祭り「狐の嫁入り行列」【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002080.html

●神崎のナナメ読み: 新潟県津川地区の祭り「狐の嫁入り行列」【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002081.html

●神崎のナナメ読み: 新潟の平和を守る仮面ライダーさん
http://kanzaki.sub.jp/archives/002082.html


阿賀町では、12の宿泊施設が協力し合い、「狐の嫁入り稲荷」と命名した稲荷寿司を開発しました。
「狐の嫁入り稲荷」は、以下のルールに則って開発されました。

・阿賀町産のコシヒカリを使用する

・阿賀町産の油揚げを使用する

・原則、宿泊者に対して夕食時に提供する

・少なくとも、5月3日から5月31日までの約一ヶ月、提供する

この「狐の嫁入り稲荷」は、第四銀行(新潟最大手銀行)による「観光地の活性化支援事業」の取り組みの一環として、阿賀町にある12の宿泊施設が2009年11月〜2010年4月までの約5か月をかけて開発した料理だそうです。


●稲荷寿司に決めた理由

稲荷寿司に決めた理由は4つです。

・毎年5月に"つがわ 狐の嫁入り行列"が阿賀町で開催されており、対外的に稲荷寿司をアピールしやすい

・稲荷寿司ならば米の他に、中に詰める具材として阿賀町産の様々な食材を使用できるので、地産地消を推進できる

・使用する具材の違いで、各施設の個性が発揮しやい

・今回の名物料理がきっかけになり、将来的に大豆を栽培する町内の農業生産者が増え、油揚げが沢山作られる可能性がある

●問題点

「稲荷寿司」と決まったので、各宿泊施設が個々に開発した試作品を持ち寄りました。
かなり斬新で、独自性の強いものが集まりました。
しかし、大きさ、形、油揚げの包み方等の外観、使用する具材等、施設間で共通性が欠けていました。
どの点で統一性を図るかが問題となりました。

●完成

問題点が浮上し、料理アドバイザーの齋藤さんより助言がありました。
「春の阿賀町をあらわす稲荷寿司は、どのような外観で、どういった種類の具材にするのかという点を各施設がさらに深く考えた上で調理をした方が良い」

その助言を元に合計3回の試食会を実施。
齋藤さんを含め、参加者達が意見交換を繰り返しました。

その結果、ルールには無かったのですが、稲荷寿司の外観はよりオーソドックスな方向に、そして中の具材は、山菜の使用が多くなる等、施設間で共通性が感じられる稲荷寿司へと次第に洗練されていくことになりました。

今年4月の完成発表会では、全体として統一感が感じられる一方、油揚げの包み方、具材で細やかな特色を出すことで、12種類の稲荷寿司が揃いました。


●地産地消が進展

「狐の嫁入り稲荷」に使用する油揚げは、地元の農産物加工組合から全宿泊施設が、直接仕入れて使用することにしました。
そのため、はじめてこの組合と取引をはじめたところもあり、地産地消の進展に貢献することになりました。

また、単に仕入れるだけではなく、各施設の調理師と同組合との間で、油揚げの厚みや揚げ加減等について、積極的に意見交換が行われました。
その結果、稲荷寿司と相性が良く、かつ調理しやすい方向に油揚げを変更することが出来たので、稲荷寿司の美味しさを更に引き上げることになりました。

お客様からの評判も良いので、季節に応じて具材を変えながら、年間を通して、お客様へ提供する旅館も出てきました。


以上が実例の一つです。

さて、その土地ならではの料理開発のポイントを以下に列記します。

●参加旅館を増やす

温泉地を代表する料理としてアピールするには、やはり参加する旅館の数が多くないといけません。
けれど、否定的に捉える旅館も少なくありません。
その為、最初のうちは参加旅館の数を増やすことを当面の目標にすべきです。
それには、負担が軽くないといけません。
ルールの見直しは、はじめてから少しずつ時間をかければいい。
負担が重い料理は、料理が完成しても、継続的な提供をしにくいものです。


●旅館経営者と調理師の協力関係が鍵

名物料理を開発するには、旅館同士だけではなく、実際にお客様に料理を提供する個々の旅館内の経営者と調理師の協力関係が不可欠です。
意外と、経営者と調理師の考えにくい違いがある旅館が多いものです。
その為、対話を繰り返し、基本コンセプト・方向性を摺り合わせることが大切です。
実際、こういった名物料理の開発にあたり、同じ会議に経営者と調理師が同席することで、考えに共通性が生まれ、結果的に両者の協力関係が強まったケースもあります。


●日々の改善

「名物料」としてアピールするだけではなく、お客様に広く納得、承認してもらう必要があります。
その為にも、美味しい物を提供しないといけません。
それには日々の改善は欠かせません。
その改善結果をお互いの旅館が持ち寄り、一軒では気付けない情報・ノウハウを共有し、全旅館のレベルアップを図るのです。


●長く続けることを優先する

すぐに名物料理として知名度が上がるわけじゃありません。
その為、広報・宣伝活動を積極的にする必要があります。
例えば、報道関係者を招いての料理完成発表会の開催、ホームページ、パンフレット、チラシ等の媒体を使った発信。
地道に長く取り組み、知名度を上げていくことについて、参加者の意思統一が必要です。
料理アドバイザーの齋藤さんはこう言っています。

「長く続けた結果が技術力につながっていく。
続かないのは飽きるからである。
さらに、飽きるのは技術力がないからである。
思った以上に美味しくならないから、飽きるのである。
試行錯誤の繰り返しの中で、我慢して長く続けることで、技術力はあがっていく。
そして、技術力が上がっていくと、自然に知名度も上がっていく」


以上です。


※※※※※


参加者が多くなって規模が大きなると、意思統一が大変です。
だって、そもそもお互いがライバルなのですからね。
それに費用も掛かってきます。
費用が掛かったら、それなりにリターンが無ければ困ります。
名物料理の開発は遊びごとじゃなく、正にリスクをしょってのスタートなのです。

そうなりますと、それに賛同しない人も多いと思います。
どの業界、問題解決でもそうでしょう。
やはり、それをまとめる人が必要になりますよね。

いかに参加者を増やすか。
その為にもハードルを低くして、意思統一を図りやすくする。
そして長期的展開で考え、認知度と技術力をあげていく。
正に王道。
けれど企業だと、これを理解出来ない人が多いです。
特に、中途半端な役職で、口と権力だけはある人に多い。
そういった「雑音」を消してもらえれば、本当に少しずつ発展していけるのですけれどねえ。

B級グルメを使った町おこしもそう。
美味しいものを作る大前提として、意思統一が大切なんですよね。
来年も今頃、新しいB級グルメ王となる料理が選ばれていることでしょう。
もし、これから参加を考えている場合、これらの事を念頭に起きますと、空中分解せずに話しを進めていけると思いますよ。

Posted by kanzaki at 2010年10月04日 20:25