2020年11月29日

映画『泣く子はいねぇが』〜吉岡里帆さんの主人公を見る「目」の演技に注目の一作です

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映画『泣く子はいねぇが』を初日に観てきました。
初日といっても、なぜか新潟は公開が全国より一週間遅かったです。


●映画『泣く子はいねぇが』公式サイト



上映の最初、「バンダイナムコ」のロゴが出てきて、「あっ、うっかり上映スクリーンを間違えて、アニメ映画を観始めてしまった!!」と焦りました。
バンダイナムコって、邦画とも手を組むことがあるのですね。


そういやバンダイナムコって、新型車「日産ノート」の警告音・注意喚起音・報知音などの「音」の制作に協力しているのですよね。
マルチに活動していますね。


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秋田県の男鹿半島が舞台です。
「地方映画」の魅力は、その地域にしかない独特な文化や風土、風習を描くことだと思います。
この映画は、地元の伝統行事「ナマハゲ」をモチーフに制作したものです。


私の住む新潟市は、そういう特徴的なモノがないので、正直うらやましいです。
全国の人から見たら、「新潟って、大きい花火があるでしょ?」と言うかもしれませんが、あれはお隣の長岡市です。
新潟市から車で1時間かかりますから。


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主人公・たすく(仲野太賀)は、「ナマハゲ」の面をつけたまま全裸で男鹿の街を走り、それがテレビで全国放送されてしまいます。
以前からうまくいかなかった妻・ことね(吉岡里帆)とは離婚。
全国から苦情の投書で、ナマハゲの行事も数年自粛。
主人公は逃げるように東京へ行きます。
ことねが再婚するということを知って再び、秋田へ戻り、話しが進んでいきます。


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リアルだなあと思ったのが、主人公が再び秋田へ戻った際の、地元の人の「目」ですね。
地元のみんなを裏切った主人公との間に「壁」があります。


愛想をつかしているというか、見下しているというか、誰一人笑った目で話しかけません。
ちょっとヤバイ感じの唯一の友達も、なにも責めない母親も、怒ったりしないけれど、目は笑っていません。
誰も真剣に、主人公の今後に対して考えていません。
さっさと、視界から消えろと。


一度、集団の中で迷惑をかけた人間は、もう誰も相手にしないという空気をリアルに描いている映画とも言えます。


「孤独」じゃなく「孤立」した人間って、1対1で人と接することはあっても、集団に交わることってないですよね。
そういう、「つまはじきもの」になったら、その集団から出ていくしかないです。
特に地方はね。


東京へ逃げた際、かえって東京の人の方が、過去のことを知らないから、笑顔で「生きた目」で接してくれていました。
なんでわざわざ、主人公は秋田へ戻るんだろうと思いました。


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地元の人の「目」で一番リアルだったのは、吉岡里帆さんですね。


すっぴん風のメイクで、口紅とか赤い色など化粧っ気なし。
あんなに綺麗で「THE・芸能人」なのに、本当に街の中にいるかもしれない感じの雰囲気でした。


そして終始、主人公に対して「笑わない」・「死んだ目」。
あの、テンションを一切上げないで、主人公を見下している姿はリアルでした。


再婚相手といるシーンでは、ちゃんと化粧っ気もあり、笑顔で「生き生きとした目」をしており、我々がテレビで見る吉岡里帆さんそのものです。


街の中に本当にいそうな女性を演じていてよかったですよ。


なんか芸能記事とかだと、「演技が下手」とか、「女性からの好感度低い」とか、その他さんざん悪口を書かれていますよね。
なんか、「吉岡里帆なら、悪い記事を書いてもいい」みたいな風潮があります。
さすが、マスゴミ。


劇中、再婚が決まっているのに、なんで一時、キャバ嬢をやっていたのか?
なんで再婚が決まっていて、新しい亭主との仲もとても良いのに、パチンコ店で死んだような表情をしていたのか?
そこがちょっと疑問です。
キャバ嬢を辞めた後、医療事務の資格をとって就職したようですが、そういう努力の姿を映していません。
そもそも、主人公が劇中でも言ってましたが、新しい亭主はなんで自分の嫁になる女性にキャバ嬢をやっているのを止めるようなシーンが
ないのか?
ちょっとそこが疑問です。


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普通の映画だと、主人公は最悪な状態からスタートしても、努力して最後はハッピーエンドになるものです。


その過程で、少しずつまわりの人の目も変わってきて、応援してくれたり、協力してくれたりします。
しかし、この映画では、一切そういうのがありません。


秋田に戻ってきた主人公は、なにをするでもなし、ただくすぶっているだけ。
まわりの人の目も態度も、まったく変わりません。
せめて、ボランティア活動をするとか、自分の父親がやっていたように、ナマハゲの面づくりに真剣に取り組むとか、そういう事を描けばよかったのに、本当になにもしない主人公です。
そうすりゃ、壁を作っていたまわりの人たちからの評価も変わったのにね。


う〜ん、ナマハゲをモチーフにしているのだから、主人公が改めてナマハゲの面づくりを学んだり、歴史を学ぶ姿を通して、映画を観ているひとにもナマハゲの魅力を伝えれば良かったのにね。


てっきり、柳葉敏郎さん演じるナマハゲの会長さんは、最後は主人公を温かく迎えてくれて、一緒に伝統行事を守っていこうみたいな感じになるのかと思っていました。
ところが最後の最後まで、主人公に対する敵意は変わりません。
むしろ、主人公がナマハゲをするのを阻止する。


この映画、主人公がなにも成長しなければ、まわりの人も手助けしません。
2時間近く上映し、誰も心の変化はありません。
最後に、主人公が強引にナマハゲをやっておしまい。
謎の、ナマハゲエンド。


ナマハゲで自分の娘を怖がらせる。
新しい父親の懐でギャーギャー泣くことで、娘はより新しい父親を頼ることになる。
ひょっとして主人公が、自分の娘との決別をするための行為だったのでしょうかね?
もしそうなら、ちょっと説明不足ではないかと。
いきなりぶつ切りで終わってしまうので、その後がどうなったのか描かれていないので分かりません。


エンドロールを観ると、秋田の多くのお店・企業・人・行政が関わっています。
そういうのも地方映画の魅力ですよね。
果たしてこの映画を観終わった際、そういう関わった地元の方々は、どう思ったのでしょう。


もっと、「ナマハゲ」の魅力を描いて欲しかっただろうし、出演者たちの笑顔を観たかっただろうし、ハートウォーミングなストーリーを期待していたのではないでしょうか。


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映画「糸」だと菅田将暉さんが、くすぶっていたけれど妻の死をきっかけに、働いているチーズ会社で研究に没頭し、世界に通用するチーズ作りを行います。


映画「きみの瞳(め)が問いかけている」だと横浜流星さんは、出所してヒロインと出会い、逃げ出したボクシングに再び一生懸命打ち込みます。


普通、そうですよね?
映画って、主人公の心境の変化と行動が肝だと思うのです。
しかし、この映画の主人公には、それがありません。


ある意味、ものすごいリアルです。
現実は、こういう主人公みたいな人間が多いです。
けれど映画なのだから、2時間ぐらい「夢」を観させてくれよと思いました。


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【関連記事】


下記は、私の地元新潟市を舞台にした映画「ミッドナイト・バス」を観た感想です。

●映画「ミッドナイト・バス(原田泰造さん主演)」を撮影地・新潟市民が観た感想〜この映画の真のテーマは「気づき」だと思います



●映画「きみの瞳が問いかけている(吉高由里子さん、横浜流星さん、三木孝浩監督の舞台挨拶あり)」を観てきた感想

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●映画「糸」の感想〜平成という約30年を描いたお話しだったので、TBS金曜22時ドラマ枠の長丁場で観たいなあと思いました

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Posted by kanzaki at 2020年11月29日 12:38