2008年05月08日

「相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン」の感想(ネタバレあり編)

今日の「うたばん」に、水谷 豊さんが出演していましたね。
石橋さんと昔から面識があったなんて知りませんでした。
「カリフォルニア・コレクション」を歌われていたのですが、昔のみずみずしい感じが変わっていません。
「相棒」で亀山 薫役を演じている寺脇康文さんもビデオで出演していましたが、水谷さんは極度の「方向音痴」だとの事。

さて、前回の続きです。
今回はネタバレをした上での記述ですので、未見の方はスルーしてください。

●前回の記事:「相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン」の感想(ネタバレ無し編)
http://kanzaki.sub.jp/archives/001651.html

今回の犯人は、西田敏行さんが演じる元大学教授・木佐原芳信でした。
数年前、彼の息子・渡がボランティアで海外へ行った際、テロリストに捕まり、最後は処刑されました。
その時、日本人の多くは、この家族をバッシングしていたようです。
犯人である渡の父親は、
「数年経ったぐらいで、すっかり俺の息子の事を忘れやがって! 自分達をあんなに叩いていたくせに!!」
というのが犯行動機のようです。
一回しか見ていないので、本当のところはよく分かりませんが、おそらくこんな感じだと思います。

映画を見た人は誰もが、「イラク日本人人質事件」を思い浮かべるでしょう。
映画の中でも、犯人の息子がテロリスト達に殺されるシーンがありました。
当時の事件を否が応でも、思い起こさせます。

●イラク日本人人質事件 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E4%BA%BA%E8%B3%AA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

2004年4月、イラクで日本人3名(ボランティアと称する女性、フリーカメラマンの男性、ジャーナリスト志望の未成年の少年。通称"3バカトリオ")が武装勢力によって誘拐されました。
この時、マスコミを中心として、国内がバッシングの嵐でしたよねえ。
あれは異常でした。
劇場版「相棒」で、国民がバッシングしているシーンは、この時の事件がベースになっていると思われます。

しかし、2004年10月、日本人青年1名が人質になり、首を切断され殺された時は、遺族の対応が非常に冷静だった為でしょうか、バッシングも起きず、報道自体も淡々としていました。
映画での映像的なモチーフはこちらの方です。

映画を見ていて不思議に思ったのが、海外で人質になった青年に対する国民のバッシングです。
親族がDQNな記者会見を開いた訳でもないし、青年そのものは良い人物象です。
国民がバッシングする理由が、よく分かりませんし理解できません。
現実世界での日本人青年人質事件の時、国民は冷静でした。
既に幾つか人質事件を見ているからでしょうが、基本的に「こんな情勢の中で行くのは"自己責任"」というスタンスで冷静でした。
映画の中で、そこまでバッシングされる理由になりそうな映像・説明がありませんでした。

また、犯人である父親の犯行動機が、いまひとつ納得がいきません。
いくつもの殺人事件を行う怒りは、本来ならば、息子を殺したテロリストへ向けられるべきです。
それなのに実際に殺した人達は、当時の報道の際、政府寄りの意見をテレビ等で話していただけの人達です。
何年も経過してから殺すには、今ひとつ動機が弱すぎです。
迅速な対応ができなかった政府に向けられるならば分かります。
ようやく最後の犯行で、元首相へ拳銃を向けようとします。
しかし、今までの犯行と違って、何故か弾の入っていない拳銃を持って、表彰式の会場をフラフラとしていただけ。
殺そうとせず、事実(劇中で言う"Sファイル")をその場で明らかにしたいだけだったのです。
今まで散々残虐な事をしてきたのに、何で最後はこんなチャチな犯行なのでしょうか?

犯人役を演じた西田敏行さんでは、映像的に優しすぎる容姿です。
どうしても、「釣りバカ日誌」のキャラクターを連想してしまいます。
警察に捕まってからの態度を見ても、とても良い人キャラです。
けれど、殺人自体は非常に残虐です。
鉄塔にワイヤーをかけて人を吊るして殺したり、やけに専門的な薬物で医者を殺したり、爆弾についても詳しい。
更には、チェスで右京と対決し、右京を自分の思ったとおりの心理へ導く高度な技。
これだけ凄い頭脳と残忍な性格を持ち合わせ、ゲーム感覚で事件を進行させる犯人。
そんな犯人のイメージと、実際の犯人が西田敏行さんというのでは、なんか今ひとつピンときません。
デスノートに登場した「L」みたいな風貌ならば納得いきますけれどね。

人質の件は、政府の対応とかの方が悪いのに、どうして一般市民を巻き込むのでしょうか?
マラソン大会で大量虐殺をするのかと思えば、実はフェイクの数々(橋の下を走るボートを使った爆発等)。
また、この大会で多くの犠牲者が出るかもしれないと、大会実行中に警察が動きまわりますが、そもそも大会を中止にしたり、開始時刻を遅らせたり、爆発の危険性がある橋を通行止めにすればいいだけです。
なんで警察、政府はそうしなかったのでしょうかね。

最初の連続殺人や、回りくどいチェスによる暗号、そしてSNSでの犯行処刑リスト・・・どれも見終わってみれば、あまり必然性が感じられませんでした。
犯行の動機付けと、一連の犯行がちぐはぐすぎます。
逮捕されてから、主人公達警察側が、こんな猟奇的殺人を犯した人間に人情をかけすぎているのも納得いきませんでした。
右京というキャラならば、どんな理由があろうとも、ちゃんと叱咤すると思うのですが、今回はそういう感じがありません。
とんでもない犯行を犯し、未来ある娘や共犯の青年の人生をむちゃくちゃにした犯人が相手なのに・・・。

今回の犯人に対して、何も同情ができませんし、終盤の感動させようという演出が、どうも肩透かしにしか感じられませんでした。
映画というスケールの大きい舞台に相応しく、事件のスケールを大きくしたけれど、かえって逆効果だったように思えます。
「相棒」という作品に含まれる社会の矛盾に対する風刺とか、何か観客を引き付ける魅力みたいなものが二の次になっていたように思えます。

あと、「Sファイル」というのは抹消されたものだったのに、コピーとは言え、なんで発見されたんでしょうかね?
そのファイルを隠蔽した政治家の娘(この娘も政治家)が、マスコミを使って公表する理由もよく分かりません。
正義の感情が働いたのか、政治家としてアピールする為の腹黒い策なのか、結局、分かりませんでした。

松下由樹さんが弁護士役で登場しましたが、使い方が勿体無かったですね。
最も犯人の近くにいる存在なのに。
いっそうのこと、共犯とかにすれば良かったかも。

共犯といえば、柏原崇さんが演じた塩谷和範ですが、彼は最後に毒を飲んで死んでしまいましたね。
あれって自殺なのでしょうか?
それとも、木佐原芳信に騙されて飲んだのでしょうか?
一連の殺人事件の犯人としては、こちらの方が風貌的にもピッタリです。
だからこそ、真犯人に意外性を持たせようと狙ったのでしょうが、失敗だったように思えます。
最後の最後まで塩谷和範が単独で犯行をして、その犯行の動機を知った木佐原芳信が、最後だけ元首相を相手に拳銃を向けるのならば、何とか理解できるのですが・・・。

今回、これだけ大ヒットになったのですから、作品の質自体も、それに相応しいものであってほしかったです。
おそらく二作目も作られるでしょう。
東映としてみれば、久々のヒット作ですから。
次回はスケールの大きさは気にせず、いつものレギュラーを中心にして、脚本の質が高い作品を作って欲しいと思います。
きっと「相棒」のファンは、そっちの方が喜ぶと思います。

批判ばかり書きましたが、この世界観は大好きだし、毎日のようにテレピの再放送を見ています。
好きだからこその提言として受け取ってください。

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Posted by kanzaki at 2008年05月08日 22:10